017年のフランス・イギリス・ベルギー合作。元ネタ小説はローラン・ビネ原作の『HHhH プラハ、1942年』の映画化作品で、世界的にもベストセラー2014年翻訳小説部門で本屋大賞第1位となった作品。ラインハルト・ハイドリッヒ、ナチス高官の暗殺の作品である。
ただこの作品は、一見ハイドリッヒが主役の作品と思ったが、実は後半は暗殺実行犯であったレジスタンスの若き2人の青年にフォーカスされてもいる。その対称的な生き様がこの作品の醍醐味でもあるかのように思える。
そして、ヒトラーでもヒムラーでもなく、なぜラインハルト・ハイドリッヒが38歳の若さで暗殺されたのか。なぜ彼は、そこまで冷酷になれるのか。
そんな彼にも家族があり、子どもがいる。息子にピアノを教えるシーン。あれは普通の父親の姿だった。そして、ときに感情的に激しい怒りをぶつけることもあったのだ。単なる冷酷人間だと思っていたが、そうでもなさそうである。最後に病室で亡くなるシーンも、彼なりに想いがあったのだろうと想像させてくれる。奥さんも上品な感じなのに。その妻の奨めで入党したナチ党。諜報活動で党幹部まで登りつめていく。
海軍を不名誉除隊された普通の男が、恐ろしいまでに豹変していく姿が描かれている。
そう、彼は元々はナチ党ではなかったのだ。不祥事で軍隊を追い出された彼。人を信用しないという心はそうした背景もあったのだろうか。
あのユダヤ人大虐殺。反逆者の殲滅活動。拷問、脅し、虐殺。その氷のような冷徹さ。表情何一つ変えずに、人はその場に合わせて、あそこまで冷酷になれるものなのか。それは何がそうさせるのか。何が人をそこまでにするのか。ドイツの政治警察権力を一手に掌握して、ヒムラーに次ぐ親衛隊の実力者となったハイドリッヒ。彼はユダヤ人問題の最終的解決計画という、あのホロコーストの実質的な推進者でもあった。
もうひとつの側面であるレジスタンスの活動。一般市民が犠牲になることも解っていながらもそれを実行する。大英帝国政府およびチェコスロバキア亡命政府が送りこんだチェコ人部隊。激しい銃撃戦。あの美しい東欧の街並みがその悲惨さから余計に美しく見えてくる。心に突き刺さる作品でした。
それは、あまりに美しい風景とは対称的。悲惨すぎて、目を覆いたくなるシーン。つい70数年前にあった事実だけに心に刺さるのだ。まさに言葉を失う…。
平和は何気なくあるわけではなく、努力により成り立つし、それを選択する目を私達は常に持たないといけないかも知れない。★★★☆☆
投稿者プロフィール
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人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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