幼児期の原体験がその後の対人関係に影響を与える「パリのどこかで、あなたと」

オススメ度:★★★★☆(4.2)
理由:あの心地よいエンディング.
見る価値ありです.
恋愛作品のようで,
実は心理面で奥深い作品.
もどかしさがありますが,
これは必見です.

特にエンドロール前の
最後の数分がとても
ジーンとする.

これは恋愛映画ではない.
題名からすると,
そんな予感すらするが,
全く違う.
最後まですれ違う.
偶然も必然.
会うべき時が来たら
出会うのかもしれない.
タイミングとは波長だ.
男女は波長が合った時に
はじめて出会える
ものなのだろう.

パリで隣り合うアパートで
互いにひとり暮らし.
窓から電車が眺められる.
そんな情景.
都会でありながら下町の風景.
パリらしい薫り.
彼女メラニーは30歳,
癌の免疫治療の研究者.
彼女は元彼と別れてから
過眠症に.
一方,彼のレミーは
商品の運送倉庫で働く
真面目な青年.
リストラで同僚が
次々の解雇されるも
自分だけが残る.
そして昇進した自分への
罪悪感とストレスから
不眠症に.

互いに心理カウンセラーを
受けているが,
全く別々の診療所で,
ここでもすれ違いのままだ.

パリで同じ地下鉄に乗る,
もちろん駅も同じ.
そして同じ店で買物もする,
治療薬を買いに行く薬局も
同じ.道ですれ違う.
それでも互いに
全く知り合うことはない.
出会うことなく
二人のすれ違いが
描かれ続ける.

都会の喧騒の中で,
すれ違い,孤独,
田舎の家族との関係.
トラウマ.お互い家族との
間に問題を抱えた男女,
心の動きが細やかで
とても刺さった.

特にミレー.
幼い自分の妹が
当時8歳で癌で亡くなった.
そのことを両親も
兄弟も口にしないように
している.その幼少期の体験が,
その後の自身を形成して
いくうえで,
対人関係に影響を
与えると思う.

自分と対峙し,
これまで避けてきたことに,
何かをきっかけにして,
安らぎを得て
精神的に成長して
いくのだろうか.

精神科医学の一部を
垣間見た作品だ.
心の傷と対峙することは
実に孤独.
まさに自分の傷口を発見し,
その傷を自覚して,
それを否定せず受け入れる.
しがらみという名の鎖から
解き放される.
するとそこから新たな行動へ
移せるものなのかもしれない.
それが心を打ち泣かせる.
泣ける.そのシーンが泣ける.
まるで心療内科に見ている
こちらも通っているような
気持ちになった.

カウンセラーの先生からの一言.
「人生を信じてみて」
は,まさに,
そこからスタートなのだと.

深層心理の奥底で二人は
繋がっていて,
そこで現実でも
出会うのではないか.
そんな気持ちに
させてくれる作品だ.

希望というのは,
どこに落ちているのか
判らない.
そして
どこで拾うかも不明だ.
重くのしかかった,
喉に引っかかって
悩んでいる「魚の骨」も,
そんな「トラウマ」も
いつ何時,どんなタイミングで
どんなキッカケで
外れるのかわからない.

一生出会わない場合も
あるだろうし,
ほんの些細なことで
歯車が動き出す
かもしれない.

切なくもあり、
微笑ましい.

人はネガティブ全開
という時もある.
波動が低い
自分でいる時もある.

自分を見る
もうひとりの自分.
客観的に見られる
自分の存在.

人と話すことは
とても大事な解決の
糸口になるのかも
しれません.
ただ
聞いてもらうだけで,
それだけでいい.
その意味が
わかったような気がします.

猫.人懐っこいお店の主人.
音楽・ダンス・スポーツに
触れ合える場所.
都会の孤独の中にあっても
味方によっては
温かいところばかり.

母親への怒り.
父親への怒り.
自分を開放する
ということは,
自分を
赦すことから
スタートするのだ.

閉塞感は
場所ではない.
自分自身が
創っているものなのだ.
これまでの「魚の骨」とは
なんだろう.
ずっと隠して
抱えてたものって何だろう.
弱い場面を見せずに,
強がる自分を捨てて,
全部さらけだすと
見えてくるもの
かもしれません.

人は何かをキッカケで
変われるもの
かもしれません.

心の病気.心の傷.
人の弱いところでもある.
他人からしたら,
どうでもいいことが,
その人にとっては
重大なこと.
何でもないことが
その人にとっては大事.

考えるだけで
病んでしまうこと
だってある.

人に打ち明けることで
救われる.
時には人に吐き出すことも
必要なのだ.
人の悩みをただ聴くだけ.
そんな人になりたいと
感じる作品.

人と人との出会いは,
作品に取り上げられていた
マッチングアプリなどで
現実社会で「出会う」ことは簡単.
でも,
その関係は薄い
のではないか.
心地よくが虚しいのだ.

投稿者プロフィール

アバター画像
天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
詳細プロフィールはこちら。
PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました