壮大なストーリーが詰め込み過ぎな「鹿の王 ユナと約束の旅」

鹿の王

オススメ度:★★★☆☆(2.5)
理由:大きな世界観,
魂の存在と近代医学,
各氏族,勢力,国家….
様々なことが描かれている原作を
映画化にすることは
難しいことなんだと実感.
本映画では壮大な世界観が,
今ひとつ描ききれていないように
映りました.

裏工作や陰謀が渦巻く業界も
ちょっとあっさりめ.
気になる伏線をスクリーンに
もっと撒き散らしてほしかった.
冒頭の活字で説明する部分は,
アニメを流しながら,説明をするとか
ナレーションがあった方が
いいかもしれません.
劇場でフルスクリーンいっぱいに
文字が羅列されているのは
観客からすると多少疲れます.

ま,内容は入ってくるし,わかるけど,
今ひとつ感情移入できないのは
何故なんだろう.
親子の愛情もわかる.
離れたくないという気持ちも.
もう一つだった.

本作品は,上橋菜穂子さんの
小説の映画化.上橋菜穂子ワールドが
広がるあの感動の本屋大賞を受賞した
という作品だけに期待が大きかった.

原作が単行本で上下巻,文庫本では4冊分.
原作が元々,壮大なストーリーの上に,
複雑な人間関係,国家と国家,
氏族間の衝突.そして怪しい
シャーマンでの治療,
いわゆる宗教的な医学と抗体を
用意するといった近代西洋医学の対立,
そして伝承を重んじる村文化….
加えて「心の隙間」それは
人の弱みでもあるが,
一方で優しさという面も描いている.

そして何よりも,原作の文面に
溢れる言葉の美しさ.
あの活字による感動を!

そういう思いがあればあるほど.
ちょっと残念.
2時間に物語を全部詰め込むには
ちょっと無理があったようにも見える.
欲張りにも全部をダイジェスト版で
見せようという試みだ.

せっかくなら,
その与えられた2時間を有効的に,
例えば一部分も切り抜いて劇場版
として客品した方が良かったようにも
思います.

たとえばそれは「鬼滅の刃」で言えば,
煉獄さんのように.あるいは「三国志」
で言えば,赤壁の戦いといった,
いわばワンシーンだけを
切り抜けばいいようにも思う.
それでもどうしても全部見せつけたい
というのなら,何かひと工夫が
必要だったように思えます.
ただ光もあります.
優れたアニメーション技術.
美しさは光ってました.

原作はコロナ禍の以前の作品
ではあるものの,ちょうど封切りが
コロナ禍の今と重なり,
偶然にも内容的に
うってつけのようなテーマ.
謎の疫病.そして抗体を持つ主人公.
本作,ダイジェスト版を楽しむには,
多少予備知識が無いと映像に
集中できないかもしれません.
そういう意味においては,
まずは小説を先に読んだ方が
入りやすいし,
十倍愉しめるかと思います.

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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