「兄消える」観ました

名演小劇場

柳澤愼一86歳、高橋長英76歳。柳澤愼一は86歳にして主演。こんな粋な歳の取り方をしたいと思う。昭和のレトロな街並み。信州上田といえば、真田幸村。袋町でのロケ。是非、もう一度あらためて行ってみたいと思う。
家出をした兄がなんと40年ぶりに帰ってくる。再会した兄弟の歳を足すと162歳。

幼い頃、お茶の間で柳澤慎一を観たことがあるかも知れません。御本人も今回の作品を遺作にするとおっしゃっているだけに、その軽さが素晴らしい。対称的な真面目な高橋長英の演技も素敵だ。
ほのぼのとした、ちょっと浅いと言えば、浅い作品かも知れないが、それでも鑑賞した後に、悔いのない生き方をしよう!と言った何かしら、自身の生き方に刺さるものがこの作品にはあるように思う。毎日毎日、同じ位置で同じ朝食、そしてお昼にはカップ麺、そして夜には銭湯。その錢湯で高橋長英と江守徹が一緒の湯船に。そして江守徹のセリフが特に印象的だった。
なんと、アダム・スミスのセリフが唐突にでる。あのアダム・スミスと言えば、何と言っても「神の意見えざる手」があまりにも有名。でも彼は経済学者である前に本当は哲学者なのだ。彼の自由経済主義、市場に任せるというのは、人々が道徳あっての振る舞いがあって、それが前提。そこではじめて需要と供給とのバランスなのだと。 『道徳感情論』にはアダム・スミスの人間学が現れている。人間の幸福とは何か?それを真面目に問うということ。それはさておき、
「幸せには『共感』が必要なんだ」それは「幸福」を手に入れるためには道徳が、それには他の人から共感を得る必要があるという、凄く深い話です。
「心の平静」という点では高橋演ずる鈴木鉄男の生き方も、そして柳澤演ずる鈴木金之助の生き方も、どちらも正しいかも知れません。
健康でいて、借金もなくて、そして心の中に何らやましいところのない人…。すなわち「心の平静」スミスが唱えた幸福論をここでっ持ってくるあたりが凄いと思いました。唐突ではありますが、喜劇でもあり、それでいて滑稽でした。文学座の演技なのでしょうか。
昭和のレトロな感じの中で、ラジオニュースから米国トランプ大統領の話題が出るあたりが時代錯誤を生む。柳澤さんのような金之助のような、そんな服の着こなしができたらいいと思う、歳を取ってもそうした身だしなみができる人は凄いと思う。
もちろん、まじめ一徹に生きてきた鉄男も名前負けしないほど堅物。振り返れば何だったんだろう?と、思う人生でも、生きているだけでも儲けもの。そう感じる。全く正反対な生き方をしている二人。稚拙といえば稚拙と思わせる部分も作品の中にはあろうが、それがまた、個人的には、味があると思う。結局は最後に「ああ、観てよかった」と感じるかとうか。二度とない一度きりの人生だ。この映画は素朴ではあるが、感じることが多い作品だった。★★★★☆」

兄消える