オススメ度:★★★★☆(4.5)
理由:3時間と長編.
涙が自然と溢れてくる.
決してお涙頂戴ものではなく,
その理不尽さに泣けるのだ.
共感して,パンフレットを購入.
これはオススメです.
今年4月に亡くなった
大林宣彦監督の遺作.
監督は,その生命を,その余命を,
この作品,平和のために…
役立つために使ったという.
ヒロシマ…,
平和のために役立つ芸術を残すこと.
亡くなっても尚輝いている.
そんな命を感じる作品だ.
余命宣告も受け,
長く癌と闘った監督だけに,
その躍動がスクリーンに
広がっていた.
まさに集大成の作品だ.
舞台は尾道.今夜限りで閉館する映画館.
戦争映画を観ていた現代の若者3人が,
タイムスリップして,
そのスクリーンへの中へと入り込むという,
まあ,よくありそうな話.
そこで過去を追体験していく.
幕末の坂本龍馬,西郷隆盛….
戊辰戦争から日清・日露・日中戦争,
太平洋戦争へ,
そして沖縄,ヒロシマ…へと
描いている.
一番の見せ場は,後半1時間.
ヒロシマの原爆投下によって,
ほとんどの団員が亡くなった
実在の移動劇団「桜隊」を
扱っているところ.
戦争へと突き進んでいく歴史.
まさに理不尽のオンパレード.
そんな理不尽から助けたくなる
彼ら3人の気持ちは共感できる.
原爆投下で多くの人が命を落とした,
あの惨劇.
監督の魂が詰まっている作品だ..
また本作品は技術表現でも楽しめる.
さまざまな表現で充実している.
モノクロにサイレント,
ミュージカルに時代劇,
アクションものなど,
御年91歳の犬塚弘はじめ,
大林作品に出演した俳優陣が勢揃いだ.
尾美としのり,浅野忠信,
小林稔侍,常盤貴子,
山崎紘菜,満島真之介,
中でも,
若手の吉田玲の演技は素晴らしい.
作品のタイトルのとおり,まさに「玉手箱」
凝縮した作品だ.
↓↓↓【ネタバレ注意 ネタバレ注意】↓↓↓
まさに映画鑑賞を終えた若者3人が
言った言葉が
今でも,今でも,今でも,
重くのしかかる.
「観客が高みの見物じゃ世の中は何も変わりゃせんで。」
「映画で歴史は変えられんけど、歴史の未来は変えられるんだ。」
「それをハッピーエンドにするのが、わいら観客じゃ。」
だと.
そして,
作品の随所に入ってくる中原中也.
もう一度,この時代だからこそ,
今でも色あせていない詩だ.
中原中也の「野卑時代」
(1934.11.29)
『星は綺麗(きれい)と、誰でも云(い)うが、
それは大概、ウソでしょう
星を見る時、人はガッカリ
自分の卑少(ひしょう)を、思い出すのだ
星を見る時、愉快な人は
今時減多に、いるものでなく
星を見る時、愉快な人は
今時、孤独であるかもしれぬ
それよ、混迷、卑怯(ひきょう)に野卑(やひ)に
人々多忙のせいにてあれば
文明開化と人云うけれど
野蛮開発と僕は呼びます
勿論(もちろん)、これも一つの過程
何が出てくるかはしれないが
星を見る時、しかめつらして
僕も此の頃、生きてるのです』
その一節の
「文明開化と人云ふけれど
野蛮開発と僕は呼びます」
この詩,
考えると…
大林監督の語録に
通じるところが
あります.
大林監督曰く
「幸せにならないための開発や
文明化、経済大国は少しもいいことではない。
私が守り続けてきた尾道も、
そういう意味では
文明の尻尾になるより、
文化の頭になってほしい。」と.
想定を上回る傑作でした.
大林作品の「尾道三部作」の
『転校生』
『時をかける少女』
『さびしんぼう』
を観たくなった.合掌.
投稿者プロフィール
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人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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