リーマンショック.派遣切り.理不尽でも合法だから虚しい『時の行路』

時の行路

オススメ度:★★★☆☆(3.2)
理由:サクセスストーリではなくて,
現実を見せつけるような,
こうした作品も必要だ.
この,もやもや感を一体どこに
ぶつければいいのか.
その歪を正すには法の改正も
必要かもしれないし,
そうした社会の風潮も左右されるから,
それ自体を変えていく運動もする必要がある.

そしてそんなに頑張っても,
必ずしも,成功しない.
希望も絶望へと変化していくかもしれない.
それでも生きていく.

失敗や苦悩,葛藤,現実はその連鎖.
そうした人生もある.それでも生きていく.
たくましさ.
虚しさ.それが描かれた作品だ.

原作は田島一の小説.後で知ったけど,
あの日本共産党中央委員会の
発行する「しんぶん赤旗」連載小説だった.
しかし,内容は労働者の立場で
描かれてはいるが,
必ずしもニュートラルな立場ではないにせよ,
極端な描き方ではなく,
家族や働く仲間など丁寧に扱われており,
作品として評価されてもよいと感じた.

2008年のサブプライムローンの焦げ付き,
あのリーマンショックで
リストラされた派遣・非正規労働者の
労働運動と,その家族や周囲の状況を
描いた作品.
実際にあった自動車工場で働く
非正規労働者の実話を元にしている
という.

東北青森八戸からの出稼ぎで,
一家を支える優しいお父さん役を
演ずる石黒賢と,
その妻を演ずる中山忍.
特に妻の気持ちがわかる.
そして年頃の娘と息子.
残された家族.父に対する思いも
よくわかる.

妻の実家に妻と子ども二人を残して,
静岡の自動車工場で働くベテラン旋盤工員.
彼は,職場でも工員としてその技能を信頼され,
しかも本社員の教育担当も頼まれた人物だ.
旋盤工の技能,仕事に対する熱意,
まさに模範社員.
非正規から正規社員への転籍試験も
用意されていた.後半年,
あるいは一年後には,八戸から静岡へ
家族を呼ぶこともできるかもしれない.
そのために必死頑張っていた父.

しかしである.あのリーマンショックで,
非正規労働者の「大量首切り」により
職場を追い出されてしまう。

その後の非正規社員の労働運動の
先駆けとなった出来事.
もう20年以上の前のことになるのか.
確かに今では当時の労働法も
改正はされたものの,
まだまだ『派遣切り』や
労働市場の流動化で,派遣社員は
利用されていると思う.

しかし,労働を市場と考えれば,
まさに需要と供給.
使用者と労働者の関係.
権利と義務.
雇用者側もそこまで労働者の権利を
認めることが必要なのか.

資材も労働も同じように扱われる.
「要らなくなったらポイ」
それが需要と供給.

確かにモノのように扱われる労働者
ではあるが,冷静に考えれば,
需要と供給から見れば,
あながち間違ってはいない.

売り手市場の時もあれば,
買い手市場の時もある.

ただ,人を道具のように
便利に使って,
要らなくなったらポイ!
それはないんじゃないか!
需要と供給で決まるにせよ,
その人には背後に人生がある.
家族がある.モノとは違う.
悔しいこともあろうし,
泣けることもあろう.
理不尽さに腹が立つこともあろう.

騙し合いも合っただろうと思う.
それだけに契約社会だけに,
押印や署名には慎重になる必要もあるし,
口約束には,書面や録音など,
裏取りも必要だろう.

人として,
今のメカニズムで良いかどうかは
疑問もあろう.
歪んでいるこの社会に
一石を投じるだけのインパクトが
ある作品だ.

投稿者プロフィール

天雨 徹
天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。名古屋工業大学客員准教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」
ブログでは日々の気づきを中心に書いている。
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