約3時間,これぞ映画「異端の鳥」

オススメ度:★★★★☆(4.0)
理由:人間の本性がむき出しなる.
戦争や差別,理不尽な環境.
これでもかと,えぐり出されて,
これは鑑賞すべき作品だ.
人生を素直に生きるためにも
必要な作品だと感じた.
まさに生きるために何が必要か
考えさせられる.

「存在のない子供たち(Capernaum)」にも
似た感覚.人間の本能というか醜さに焦点を
あてた作品だ.心が痛めつけられて人が
変わっていくのは,
アナキン・スカイウォーカーや
ジョーカーにも似ている.
こんなに痛めつけられて,
変わらない人間はいないだろう.
どうやって生きていくのかを問う
作品でもある.

第二次世界大戦中,
ホロコーストを逃れて叔母を頼りに
疎開したユダヤ人の少年.
正確には両親がおそらくそうさせた
ようだ.その叔母も病死し,
天涯孤独に一人あてのない旅へ.

その少年の前に立ちはだかるのは,
文字通り「異端」として様々な
差別や迫害や虐待,あまりに理不尽な体験.
そんな中にあって強く
生き抜いていく姿を描く.
場所は何処なのか特定されていない.
設定は東欧の何処の国のようだ.

この作品の描き方が,
何とも言い表されないほど過酷で残酷.
人はそこまで,残酷に差別できる
ものなのか.群集心理,群れという存在,
人間も所詮動物.動物という存在は,
こうした本能をもっているのか.

殆どが敵で,ほんの僅かではあるが,
善人も居ると思うと救われる.
ただ,そうしたちょっとの幸せは
長続きしないものだ.
ほんの少しだけの安らぎ.

やはり人生は
どんな最悪な過酷な状況でも
生きてさえいれば,
笑えることもあるし,
心が,いや魂が喜ぶことも
あるんだと思う.
たとえそれがほんの僅かでも.

泣き寝入りせずに,
やはり「目には目を歯に歯を」.
それでは争いはなくならない.
生きがいを無くす,
だんだん擦れていく
堕落していく姿が切なくもある.
でもそれが現実なのだ,

怒りに満ちた感情.
重くて息が詰まる.
実際はこうした現実が
今でも,こうした状況が世界のどこかで
あるのかもしれないと思うと
余計に苦しくなる.

生きるためにはハイエナのように
死んだ人の遺品から
使えるものは奪ったでも生き抜く
根性もいるのかもしれない.
はじめは人の死が物凄く怖い
存在だったはずが,
いつしか場数で慣れていく.
生き抜く術を身に着けていくのか,
人の死に対して,
抵抗感が無くなっていく様が
よく描かれている.

人を殺めたり,動物を殺したり,
モノを盗んだりするのも,
すべて犯罪ではあるが,
決して少年がしたことすべて
悪いとは思えない.

だんだんそうした異常と思える
行動が生きるうえで必要で,
それが普通に見えてくるのが
むしろ怖い.

「朱に交われば赤くなる」
人は七変化,心も身体も
変わっていくものかもしれない.

大衆が少年をいじめ,
逆に軍人が少年を助けるといった
なんとも逆転の感覚.
とても不思議な体験を
作品を通じて,何かホッとした気もした.

モノクロ映像が,冷酷さ不条理を
一層それを引き立てる.
加えてエンドロールまでの
約3時間あまり…
BGMのない描き方が,
ますます臨場感溢れる作品
に仕上がっている.

嫉妬やエゴ,性癖,欲望,願望…
様々な醜い数々.
人の本能は醜いのか,
いや一筋の希望もあるように
思えるのだ.これは見逃せない.
是非,観てほしい.

投稿者プロフィール

天雨 徹
天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。名古屋工業大学客員准教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」
ブログでは日々の気づきを中心に書いている。
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