見ごたえある銀獅子賞受賞作「スパイの妻〈劇場版〉」

スパイの妻(1)

オススメ度:★★★★☆(4.0)
理由:エンタメ,そしてサスペンス,
ラブストーリーともとれる作品で,
それほど難しい内容ではありません.
映画の醍醐味を感じられる.
心理作戦を垣間見ることができます.

スパイの妻(1)

黒沢清監督の映画で,
ご存知ベネチア国際映画祭の
銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞作.
これが最初はNHKのテレビドラマの
映画化とは信じられない.
完成度が高い品だ.

時代は太平洋戦争に突入する昭和初期,
軍国主義への道へ進む中,
神戸で貿易会社を営む福原夫妻
(蒼井優、高橋一生)を中心に
展開していく.
当時神戸では,国の指導もあり和服を
着る人が多い中,相変わらず洋服を着た
民間人が多かったらしい.確かに神戸は
ノスタルジックな町並みと洋服が似合う街だ.
国全体が内向き志向に走る中,
神戸の人は外向きに目を向けた人も
多かったに違いない.

妻役の蒼井優.あどけなさを見せる一方で,
そのしたたかさ・冷淡さが魅力であり,
惹き寄せられていく.
作品の残り30分.ラストの作り込みは,
まさに言葉がない.

妻の夫に対する愛情が半端ない.
夫は妻のその真っ直ぐな性格が
好きなのだろう.愛おしくも思える.

しかし,それにしてもこの作品の
凄いのは伏線が完璧だということだ.
伏線としての仕掛けが凄過ぎる.
たとえば趣味として,
会社ぐるみで行っている
自主映画制作だ.撮影では,
自分の会社にある金庫を
妻に開けさせるシーンもあって,
一見なんの変哲もない撮影シーン.
それが後から
「そういうことだったのか」と
唸ってしまいます.

この練られた作品.
僅か120分の中で息が詰まるシーン,
あどけなさ,したたかさ,笑えるシーン,
泣けるシーン,きめ細かな,
それでいて大胆な仕掛けなどが
満載でぎっしり押し込んである.
ホント見ごたえありあます.

憲兵の士官となった
妻の幼馴染(東出昌大).
彼は国としての正義を貫く.
一方,夫の福原は人としての
正義を貫く,妻の福原は純粋に
夫への愛を貫く.
人によって志はそれぞれ違う.
それが正しいことか
間違っていることかは,
本当のことは,わからないのだ.
戦時中の憲兵による取り調べ.
被疑者への拷問.
敵国の捕虜への非人道的な行為.

最初はおそらくは罪悪もあっただろうに,
そのうちそうした感覚が麻痺して,
全体が狂気に変わっていく.
正義と信じていたものは,
本当に正しいことなのかは
次第にわからなくなっていく
ものかもしれません.
それは,ひょっとしたら,
狂っているのが自分ではなくて,
国の方が狂っていることもあるから.

終戦を迎えて,
この3人は一体どのように
変わっていったの知りたくなった.

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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