オススメ度:★★★★★(4.2 →4.9)
理由:鑑賞後数日経つが,
未だに脳裏をよぎる作品.
多少の矛盾や何故?って思うところも
ありますが,それ以上に内容が濃い.
そして淡い.でも考え込んでしまう.
この先,朝日が登っても,真っ暗….痛々しい.
確かに「いじめ」によって棒に振ったような
人生もやり直しがきくはずなのに,
なのにどうして….
さまざまな問題提起.生き方…
すべてが詰まっている.
この作品を通して,より多くの人に
勇気や希望が与えられること,
心に刻まれることを期待します.
原作者の萩原慎一郎は,
僅か32歳の若さで自らの命を
絶ちその生涯を閉じた.
ベストセラー『歌集 滑走路』を元に
藤石波矢が小説にしたもの.
それだけに深い.
彼は,中高時代の「いじめ」の後遺症に
悩まされたという.
帯を飾ったキャッチフレーズ
「僕は歌う.
誰からも否定できない生き様を
提示するために.」
には勇気をもらえる.
このキャッチは,高校の同窓会の誘いに
書いたメールの返信の一部だという.
「最近思うんです.どう考えても,
納得できないような事態と遭遇してしまう人たちが
実際にいること.
でも力強く生き抜いている,
そんな姿を見ると心打たれる.
誰からも否定することのない輝きを
有しているからです.
だから,ぼくはうたうんだと思います.
誰からも否定できない生きざまを
提示するために.」
鑑賞後,数日を経てもなお,
何か心に刺さるものがあるのは確かだ.
恐らく作品を通じて,いじめの問題,
非正規雇用の問題,過労死と
キャリアの関係,不妊,家族,
夫婦のあり方などなど.
心に突き刺さるからだ.
若手官僚,いじめを受ける中学生,
一見優しいそうな夫に子どもを
産むか相談する妻…
それぞれの家庭や生活で起こる
3つのストーリー.
それが全く別々なもので,
無関係のようにありながら,
実は少しずつ重なっていく,
共通のものを描く.
どこかで繋がっていく,
まさに映画作品らしい作品だ.
誰かに否定されてもいいけど,
自分を自分で否定する
人生なんてないように思う.
過去を思い起こすと辛い.
そして未来に不安がよぎる.
遅すぎることはない.
今この瞬間が大事で,
そこからやり直すしかない.
でもそれを考えると,
気が遠くなり….
その段階で不安で一杯になり,
その恐怖に負けてしまうのだ.
折れてしまうのだ.
「俺はいいよ,
君の好きなようにしていいよ.」
という一言は,
相手を尊重しているようにも見えて,
実は自分の主張が無い,
自分にとって彼女は
どうでもいいようにも思える,
相手任せで
何も考えていないようにも
見える.
残念な生き物に見えてくる.
思いやりがあって,
とっても優しいように
見えて違うのだ.
思い当たるフシもあり,
身につまされた.
本作品は,とってもネガティブで
八方が塞がれた状態の中にあって,
それでも,陽はまた昇るのだから,
なんとかしたいという気持ち.
そんな気持ちにさせてくれる
作品には違いない.
ドーンと重い空気な中にあって,
真っ暗の中にちょっとだけ,
光がたまに射すような,
そんな感覚を覚える.
いじめたこともある,
いじめられたこともある.…
人は自分で行った過去の過ちに
対して,「赦し」を得る相手がいるのは,
とても幸せなことで,
その人が居なくなっては
その「赦し」さえ,もらえないことになる.
過去のやってしまった過ちを考えると,
胸が痛くなる.
今も深い余韻が残こる.
あの時の時間を
彼に返してあげてほしい.
できもしない過去の
塗替えをお願いしたくなった.
あの場面,
男女二人の中学生が公園で寝転び,
天を眺めて行き交う飛行機のボディを
観る場面.
これは勤労感謝の日の天声人語に
掲載された.
たとえ翼があっても生きるのは苦しい.
テイクオフできない苦悩.
いじめを受ける中にあって,
出口の見えない毎日.
日の出とともに,
また一日が始まろうとしている.
にもかかわらず,そのたびに
憂鬱になっていくとは,
一体どんな心境なのだろう.
「きみのため用意されたる滑走路
君は翼を手にすればいい」
が胸に刻まれる.
何ともやりきれない気持ちだ.
投稿者プロフィール
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人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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