単純な謎解きミステリーではないシリアスなテーマ,さすがに直木受賞作「ファーストラヴ」

ファーストラヴ

オススメ度:★★★☆☆(3.4)
原作と合わせると★★★★★(4.9)
理由:原作は凄い.映画もそこそこ泣けた.
彼女彼らの心の傷.
トラウマに共感するからだろう.
本作は単純な事件の真相を
追うサスペンスでないところがいい.
殺人容疑者娘役の芳根京子の
演技がとにかく素晴らしい.
そして真壁我聞を演じる窪塚洋介に
自分の心の「未熟さ」をあらためて
自覚させられた.

深い闇の中に佇む娘.
心の闇.過去.
そしてそれを探求する
公認心理師,弁護士.
弁護される側にも
過去が存在する.
誰しも忘れたい傷.
そして潜在意識の奥底に
しまってしまったものがあろう.

『ファーストラヴ』
何度も芥川賞や直木賞に
ノミネートされた作品.
実写化よりもこれはやはり
アニメの方が
もっと良かったかもしれません.

家庭とは
社会の一部でありながら
閉じられた世界.
特に核家族の時代,
その中では
何が起きていても
叫んでも外に活路
を求めなければ
救われないものなのかも
しれません.

家庭内とは
閉じられた世界だ.

よほどの事件にならない
限り表にでることはない.
暴力や性虐待に
軽いとか重いが
あるとすれば,
多かれ少なかれ,
黙認され過ぎていく
ものも中にはあろう.
それがたとえ
「異常」であっても
本人には.そんな自覚の
ないままに追い込まれて,
やがては
情緒不安定になっていく.

冷静に第三者に聞けば
はっきりとわかるような
出来事.
それを「身内の恥」と
いうことで
閉じれた世界で
問題解決を
するような風潮もあろう.

父親を殺害したとされる
娘の環菜.彼女の闇は深い.

それにしても,
芳根京子の演技は素晴らしい.
公認心理師役の北川景子には
安定感がある.

あまりのショックな出来事は,
人の奥底にトラウマのように
深層に入り込み,
その後に精神的な障害を
与えるものかもしれない.

その行動も謎.
人の心理とは不可思議なのだ.

どういった心理で
そのような行動になるのか.
家庭内での虐待は直接には
被害者の娘と加害者の父親にある.

しかし見て見ぬ振りをする
娘の母親.
自分は手を下していないから
何の問題もないのだと
言いたげに,
いや,
思いたくて仕方がない親にとって,
娘が誰かに相談することで
自分が否定されてしまうことを
酷く怯えるその気持ち.
そんな気持ちがよくわかる.
いわゆる自分への言い訳.

小中学生で自分自身が
第三者に助けを求めることは
容易ではない.
些細な家庭内の出来事が
やがては
こうした大きな事件
となるようなことは
身近なニュースには
ないだろうか.

こうした悲劇を防ぐには,
やはり閉じられた
家庭環境の世界から
犯人探し・原因ではなくて,
悩みを聞いてもらえるだけ,
そんな場が必要だ.
ただ
「共感してもらえる」だけで
心が穏やかに
なるのではないか.
そうした微差の積み重ね.
それは微差ではあるが
無力ではない.

わかる,わかる,その気持ち.
そこから立ち上がることが
できるかもしれないのだ.

経営学を学んだりすると.
とかく問題の原因を
追求する癖がついているが,
こうした場合に本当に
必要なのは
情報の共有かもれない.

家族にも
「メンター」の存在が
あっても良いのかもしれない.

犯罪容疑者の過去
公認心理師の過去
弁護士の過去も
自己開示の形で解いていく.

親の視線,他人の視線.
ちょうどデッサン
している時のモデルを
見つめる自分の視線.
ドキッとした.

そうかもしれない.

誰しもそうした視線で
嫌な思いをしたことが
あるのではないだろうか.
やっている側は気にしていない.
やられている側は苦痛….

「嫌な思いを我慢するということ」

誰しも起こり得るし,
誰しもこうした出来事が
少なからず
あったのではないか.
気づかないうちに
人を傷つけること.

言葉にせずに
「暗黙知」
と思ったら,
実は全く相手と
考えが違っている.
思い込みや独り善がり.
はやり
言葉で表現する,
アウトプットすることが
大事なのだ.

本作は暴力や虐待が
描かれているわけではない.
だから黒ではない.
極めてグレーなのだ.
こうしたことなら
日常茶飯事に
起こっていること
ではないか.
自分にも
心当たりが
あるのではないか.

ぐさっと刺さる.

そうした場に
自分を置いた時,
あの娘,環菜の立場で,

辞めればいいとか
逃げればいい
という人がいるが,
でも当の本人は
それが出来ないのだ.

それは自殺したいぐらい
悩んでいるなら
辞めればいい
と言っているに
等しい.

せめて
不快を覚えない
距離まで逃げたい.
自分を守るには
そのゾーンの外に
出ることをしたい.

「おかしい」とことを
「おかしい」と
ちゃんと言える.

そんな時代が
早く来て欲しいと願う.

誰にも相談できない.
友達がいない.
現実から目を
そらしたい気持ち.
右も左もどちらも
不正解で本当の意味で
正解なんか最初から
用意されていない.
だからもう一度言う.
「メンターの存在」が
必要なのだと.

真相は「藪の中」.
事実はひとつだが
真実は複数なのだから.

深い闇.
もう一度本作の小説を
読み返したくなった.

投稿者プロフィール

天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。名古屋工業大学客員准教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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