オススメ度:★★★★☆(4.2)
理由:前半はどんな展開になるのかと
少し不安もあったが,
後半の展開はこれぞ映画
といった作品.
ぐいぐいと心に沁みてくる.
キレる気持ちもわからなくもない.
温かい元の居場所に
身を置きたい気持ちも
よくわかる.
人はそれほど強くはない.
強がりを言っても「辛抱」できない.
「辛抱」していても
「幸福」を得られる保障もない.
厳しい堀の外の環境の中にあって,
笑いあり涙ありで,
現実社会を見事に捉えている.
身分帳という存在.
これまでの刑務所での
入所態度や経歴,行動,
家族関係など詳細に
記載している書類.
所内で問題を起こすたびに
身分帳に記載されるという.
彼はそれを
詳細に書き写したらしい.
佐木隆三著「身分帳」(1990年)の
映画化.30年以上も前の作品だけに
現代風にアレンジされていた.
執筆当時の昭和時代のヤクザと
令和の時代には,
特に暴対法をはじめとした
法の整備で当時と
随分環境が違う.
そのアレンジは見事だ.
さすがに直木賞作家の
作品だけに
その中身は全く色あせていない.
むしろ,実在の人物を
モデルにしただけに,
魂が震えた.共感する部分も多い.
スッキリした形で終わる作品
ではないだけに心に沁みる.
13年の刑期を終え出所した
元殺人犯が俗世社会の中で生きる
ということは様々な困難が
待ち受けていることは
容易に想定がつく.
自立というのは
心掛けだけでは流されてしまう.
「辛抱」という言葉は
想像以上に重い.
元殺人犯は
素直で弱いものイジメが
許せないという素直な
魂の持ち主だ.
弱点はすぐに
キレてしまうこと.
血生臭さを抑えた人の
心の動きを伝える映像に
優しさが感じる.
正義感の熱い人物が
罪を犯し,
一番大事な時期に塀の中で
暮らす.
塀の外に出たときの
サポートは必ずしも手厚くなく,
自立するのは容易ではない.
堀の外は,自由である.
自由であるがゆえに
それが必ずしも「すばらしい世界」とは限らない.
むしろ束縛されていた方が
暮らしやすいのかもしれない.
漱石の『草枕』と
エーリヒ・フロム『自由からの逃走』が
浮かんだ.
もちろん漱石は言わずと知れた
「智に働けば角が立つ情に棹させば流される意地を通せば窮屈だとかくに人の世は住みにくい」
そして,自由についてだ.
自由とはEフロムの言うように
「孤独や責任」が前提になる.
「自由」が必ずしも幸福であるとは言えない.
自由を得るとは,その覚悟が必要なのだ.
社会の常識や期待とは一体何か,
それが本当に正義なのか.
考えさせられる.
そんな理不尽な息苦しい世界の中で
自立して生ききること…
それが彼にとっては
「我慢」であり「辛抱」になる.
基本的人権,
生存権を保障による
いわゆる「生活保護制度」の現実.
そんな中でも
彼の周囲には冷たい人ばかりではない.
役所広司が演ずる三上.
キレる凄みの中に優しさや
自我が見え隠れし,
とても人間味がある.
この演技は見事だ.
そんな中にあって
フリーディレクター役の
仲野太賀の気持ちに共感する.
その場から逃げたくなる気持ち,
寄り添う気持ち,
応援したくなる気持ちが
泣けるし共感した.
投稿者プロフィール
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人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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