今期2つ目イラン作品,骨太社会派ドラマ仕立て「ウォーデン 消えた死刑囚」

消えた死刑囚

オススメ度:★★★☆☆(3.6)
理由:とてもシンプルな作品ではあるが,
あとから作品評価する際に
じわじわと考えさせられる.
奥が深い作品というのは,
後から考えることがきる,
じっくり味わうには面白い.

作品が描く時代はイラン革命前.1960年代
空港建設のため立ち退きを迫られた刑務所.
囚人を全員新しい刑務所へと移送する.
全員移送したと思ったが,1人足りない.
そんなことがあるのか.あのいい加減が
移送方法ではそれもあり得る.
そして,消えた1人は死刑囚だという.
おそらく刑務所建屋の何処かに
潜んでいるに違いない.
そう踏んだ刑務所長.
この所長.上司から内示をもらい,
今期限りで栄転が約束されている.
そんな前途洋々の中に…
スキャンダルがあったら.
この栄転もパーになる.

刑務所長と消えた死刑囚.
そしてその死刑囚が
冤罪だと主張する
社会福祉士の女性.
その女性に好意を
持っている刑務所長.
果たして消えた囚人は何処に….

中身は至ってシンプルで
わかりやすい.
「犯人が何処だ!」それ一点だ.

閉ざされた世界での刑務所の
脱獄劇といえば「大脱走」.
この作品と時代は1960年代で
同じ年代.大脱走の方は
集団で穴を掘るって脱走というもの.
しかし今回はたった1人.
1人で穴を掘って脱獄というのは
ほぼ不可能.さてどうなる?

消えた囚人がなぜ“黒い靴墨”を
塗っていたのか.

エンドロール10分前で
ようやく「なるほど」と,わかる.

しかし最後の最後,
これまで相当頑張ってきたのに,
なぜこんなことを….とする所長の
人情行為が今ひとつ理解に苦しむ.

終始一貫していないのでは?

そんな半ばモヤモヤ感も
良いところかもしれない.

後は観客自身が所長の行動を
考えてくださいと言わんばかりだ.

そして,エンドロールが流れて
作品が終わっても,それでも
最後の最後まで
消えた囚人の顔がわからない.

絶妙なサスペンス,いや,
むしろ社会派のドラマ仕立てだ.

「ジャスト6.5」も面白かったが,
こちらも,そこそこ面白い.

結局はエゴなんだろうけど.
自己欲求は正義か名誉か.
綺麗事では片付かない現実を
前にして心が一瞬揺れる.

そして,女性に対する下心.
内示を上司から頂いた時に
倉庫のような部屋で
ひとり発散し喜ぶ感覚.
わかる気がします.

自身の責任は,
刑務所の囚人を司法の決定に
忠実に守り抜くこと.
それは冤罪だとか正当だとかに
首を突っ込むべきではないだろう.

そうした責任と正義と欲.
人の生死を預かる重さ.
所長とはいえ,一般の社会人.
共感する部分も多い.

そもそも人が人を裁けることが
できるのかという大きな問題にも
帰着する.

処刑台を新しく作ることを
命令された囚人が
それを拒む場面があったが,
後になって考えれば,
その囚人が言うことも
「最も」かもしれない.

死刑制度もそうだが,
イラン国内の司法制度も
考えさせられる.
再審という制度は無いのか.
「イラン革命」もそうした意味では,
国民は魂にすがる,
宗教にすがることで,
生きていく希望を持たざるを得ない.
国民がそうした選択する気持ちも
わからなくもない.

職務を全うする所長が,
決して悪人というわけではない.
冤罪だとして隠れている囚人も
本当に善人かどうかも不明ではある.

「公正明大」とは
本当にどこに存在するのかだろうか.
#ウォーデン消えた死刑囚

投稿者プロフィール

天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。名古屋工業大学客員准教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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