揺るぎない信念を垣間見ることができた『茜色に焼かれる』

茜色

オススメ度:★★★★☆(4・0)
理由:重厚な作品だ.
良子演じる尾野真千子の迫真の演技には
正直痺れた.

この脚本を生み出した監督は凄い.
思い出した.池袋のブレーキと
アクセルを間違えたあの事件.
老人の運転する車が暴走し
母子2人が死亡した.運転していた
旧通産省の人で認知症だったという.
認知症での運転は罪にならないのか.
なぜゴメンナサイの一言が言えないのか.
アクセルとブレーキを間違えたと.
思い出すだけで腹立たしい事件.
なんともはや理不尽だ.

尾野真千子の迫真の演技.
設定では,そのような老人に
跳ねられて夫を亡くした母子家庭を
生き様描く.
シングルマザーで息子を育てつつ,
かつ,夫の愛人の子どもの養育費用まで
払っている.さらに施設に入所した
義父の面倒も見ている.
そんなにも頑張っているのに,
弱り目に祟り目.細々と営んできた
カフェがコロナ禍で閉店に
追い込まれた.結局は花屋のバイト,
夜のヘルスの商売.まさに
ワーキングプアの真っ只中状態.

そんな彼女は,理不尽で激しい怒りを
覚えながらも,奥歯を噛み締め,
それを顔に表さない.
そこには
彼女の強い信念というものが
垣間見ることができる.
そして息子もそうした
母親の影響を受けて
成長していく.

ちょっとしたことで,
他人の言動で左右されて
しまうマインドの私には,
なんとも自分が「未熟」
ということを痛感させられる作品だ.
まさに正直者がバカを見る世の中.
理不尽を理不尽と叫んでも,
その解決にはならない.

格差社会の中でも必至で
生きてさえいれば
くだらないお笑いテレビ番組や
ちょっとしたエピソードで
笑える時もある.
だから生きるのはやめられない.

鑑賞直後は,自分なりの評価は
平凡だったが,次第にその感情が
高まってくる.やはりいい作品に違いない.

良子の「まあ、頑張りましょう」には
単に前向きさだけでは言い得ない,
何と言うか,その言葉に軽そうに見えて
実はずっしりと想いが
込められているように思えてならない.
これは劇場で見る作品,
劇場でしか味わえない良さが
あるように感じる.

人は大なり小なり「悩み」がある.
そして大義がある.
社会的強者も,良子のような弱者も,
それぞれ,それなりに悩みと
大義があるのだ.
人と比較している場合では
ないかもしれない.
どんな理不尽の中であっても
生きていくしかない.
その選択がたとえ最良でなくとも,
迷っていては先に行けないのだから.
間違っていようが,
行くしかないのかもしれません.

理不尽な誤りもしない加害者に対して,
自分の心中のバランス,
納得としての処理の仕方.
それが賠償金をもらわないという選択.
でもその選択は正しい?のだろうか?
自分の道理を活かすとそれは
結局エゴになるのかもしれない.

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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