オススメ度:★★★★★(4.5)
理由:とても考えさせられる作品.
胸にはアイロンを押し当てられた傷.
手にはタバコの跡.
児童虐待をテーマにしながら,
負の連鎖からの脱却は
果たしてできるものなのか.
極悪の環境を変えるには
一体どうすればいいのか.
こうした環境の子どもたちが
今も多くいる現実に
ひとりでも気づくこと,
社会を変える,人を救うとは
おくがましいが,
微差は決して無力ではない.
多くの人に観て感じてほしい作品だ.
児童相談所の
楠部知子先生から取材した内容.
発達障害を取材するつもりが
虐待の話で心が動いたらしい.
一晩で脚本を書いたという上西監督.
少しでも関心を持つ人を
増やしたいという想いから
手掛けたという.
上西監督は,監督に脚本,
主演のカネマサまで
つとめる.
日常茶飯事に報道される
児童虐待や育児放棄を
題材にした作品.
母親の恋人から虐待を
受けていた少女.
その母親も実は虐待を
親から受け続けていたのだ.
まさに「負の連鎖」だ.
そんな環境からの脱出は
一筋縄では解決する問題では
ないのかもしれない.
そんなアパートに
空き巣に入ったカネマサこと
金田マサオ.
彼もまた
幼い頃に虐待を受けいてた.
偽物の家族と言えば
「万引き家族」を思い出す.
傷が癒える家族の姿は
一時でも安らぎを覚える.
児童虐待は
受けた子どもにとっては
理不尽な修羅場だ.
それが毎日のように
折檻と称して暴力を正当化する.
そんな人として
カスかクズのような人も
100の内少しはいるのだ.
人間のクズ….
そんなクズでも
人としての魂がある.
それを「人のクズ」=「ひとくず」
という原題.
怒り,助けたい,
救いたい,だけど
助けられないという現実.
無知,知らないことを
知られたくないからこそ
本当はすごく怯えている.
カネマサもそのひとりだ.
怯えるからこそ
「去勢をはる」ことで
自身を守る殻を身につける.
注文の仕方がわからない
カネマサが去勢を張る
「焼肉」のシーン.
涙が溢れた.
家族で食卓を囲む
という平凡な日常.
それがどれほど大事なのか.
そうしたクズといえば,
長澤まさみの「マザー」も
クズだった.
あれは根っからのクズ.
カネマサは性根までは
腐っていない.
人は触れられたくない部分に
触れられたときにこそ,
感情が溢れ出し,
高ぶるものかもしれない.
クズのような母を庇うシーンや
カネマサと分かれるシーン,
虐待を受ける少女役の
小南希良梨の演技が抜群だ.
「負の連鎖」と対峙する「恩送り」
「恩送り」とは,
いただいた恩を
その人に返すのではなく,
他の人へ送ることだ.
逆に嫌なことは,良いことに
変えて人に送ることで,
ひょっとしたら「負の連鎖」を
断ち切ることが
できるのかもしれない.
ノーカットでは3時間だったと
監督はいう.
それを2時間に編集したのだと.
ノーカットも見たいものだ.
最後のカネマサが母親を
赦した場面では号泣共感した.
蛇足という感じでもあるが,
最後に悶々とするよりは
良いかと思う.
久し振りに見応えのある作品に
出会った.
投稿者プロフィール
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人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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