女性蔑視,理不尽の中で逞しく生きる意味とは何か「モロッコ、彼女たちの朝」

モロッコ,彼女たちの朝

オススメ度:★★★★☆(3.7)
理由:厳しい中にあって人間愛に
満ちた優しい作品だ.複雑な心の
内を顔色で表現する.
理不尽な性差別の中で
必至に生きる姿には,
反骨精神というよりも,
むしろ逞しさすら感じる.
笑える瞬間,笑顔の瞬間がほんの
少しでもあれば,それは儲けもの
なのだ.

北アフリカの国モロッコ.
モロッコと言えば,カサブランカ.
そんな観光の名所のイメージからは
程遠い作風だ.
モロッコは現在でも一夫多妻制が
認められる国だ.明らかに男女格差.
女性から結婚や離婚を請求できる
ようになったのもごく最近だ.
イスラム社会では未婚の母は,
タブー視される.妊娠中絶が法律で
認められていない.当然社会からの目も
厳しい.未婚の母は忌み嫌われるのだ.
そんなタブーであれば当然,そこに
存在を許さない世界,つまりは居場所も
仕事も無いのは当然の結果なのだ.

パン屋さんを営む母子家庭の母親は未亡人,
未亡人の孤独.未婚の妊婦の孤独.
一見未亡人は人に対して冷たい.
他方未婚の妊婦は自分の子に冷たい.

未婚の母は,中絶もできずに
子を産まざるを得ない状況.
すでに臨月である.
そして生まれた子に
名をつければ自分の子として
認めることになる.
また母乳を与えれば,
生まれた子とは親子関係になる.
生まれてすぐに養子に出せば,
腹を痛めた子の愛着・感情も
薄いうちに手放すことができる.
しかし養子といっても
聞こえはいいが,それは
人身売買に等しい.

未亡人と未婚の母.
互いに心閉ざしている.
そして互いに自分の避けたい
部分には蓋をして閉じている,
あるいは見えないところは,
相手にはよく見えるものだ.

結局最後の結末はどうなったのか.
それを観客に求めるような
描き方になって消化不良になる落ち.

なぜ未婚の母になったのか.
そしてなぜ未亡人になったのか.
あの夫の事故とは何だったのか.
夫の葬儀には
妻は全く関与できないのか.
それがイスラム社会なのか.

イスラム社会の葬儀では
洗浄された遺体は白い布で
ぐるぐる巻きにされるそうだ.
その状態で棺桶は用いられずに,
すぐに墓地に運ばれ埋葬される.
遺体は真っ先に埋葬されてしまうため,
葬儀は遺体なしで行われる.
しかし,遺体を巻くときには
亡骸に逢える機会は,妻にもあるかと
思うが…
会えなかったと未亡人は言う.

本作ではイスラムの習慣の情報が少ない.

そんな中で,小麦粉から,
イチから作り上げていく作業が
パン作りだ.
「パンを焼く」とは,
原料を集め,その腕一本で
生地から焼き上げ,
そして完成品していく.

「女性らしさ」は,
あくまで宗教の枠,
型にはめられたものだ.
新しく丁寧に作り上げるパンと,
劣悪の中で作り上げていく
女性の解放を
意味しているようにも思えた.
一見冷たいように見えて実は,
温かい優しい作品だ.

投稿者プロフィール

天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。名古屋工業大学客員准教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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