ジェノサイドが身近に迫る「アイダよ、何処へ? 」(Quo vadis, Aida?)

オススメ度:★★★☆☆(3.4)
理由:ジェノサイド・民族浄化,
「目には目を」では解決しない.
虐殺・蛮行は繰り返されていく.
何の罪も無い市民が
殺戮されていく.理不尽極まりない.

アカデミー賞ノミネートされた作品,
ユーゴスラビアはいびつに配置された
多民族による社会主義連邦国家だった.
チトー大統領のカリスマがあってこそだ.
少数民族にも配慮した政策.
加えて米国とソ連とも一定の距離を置く
立場の確立していた.
それがチトーの死後カリスマを
失ったために,その体制は崩壊する.

政策の失敗.抑圧されていた
民族主義・分裂主義・宗教対立が
悪化の一途をたどる.

本作は,
95年ボスニア紛争で起きた
大量虐殺事件
「スレブレニツァの虐殺」
監督自らが
家族を失った女性たちから
話を伺い,事実を組み合わせて
描いたっものだ.

その年95年では
わが国では1月には阪神大震災,
3月に地下鉄サリン事件が
発生した年でもある.

ボスニア紛争では
セルビア人、クロアチア人、
そしてムスリムのボシュニャク人.
3つの勢力が争っていた.

虐殺のあった本作の舞台の
「スレブレニツァ」は
ボシュニャク人勢力の拠点でも
あった.

先に起こしたのは
ムスリム武装勢力だという.
ムスリムがセルビア人約1200人を
殺害する事件が発生した.

その報復としてセルビア側は
スレブレニツァを包囲した.
国連がスレブレニツァを
「安全地帯」に指定し,
平和維持軍の基地を設けたものの,
セルビア勢力は,
その国連の通告を無視して侵攻.
このため住民の約2万5000人が
保護を求めて国連基地へ逃れてきたのだ.

ここから作品は展開する.

元高校教師のアイダは国連の
通訳職員として平和維持軍基地に
努めている
国連軍の通訳として働く女性アイダ.
彼女は夫とふたりの息子を虐殺から
守るため奔走する.

「私たちはリストに載っている」
リストにあれば脱出できるが,
記名がなければ脱出できない.
という冷たいリスト.

弱腰な平和維持軍とは
対象的にセルビア勢力の
暴走は止まらない.
威圧的な言動…
そしてセルビア勢力に
騙され護送され虐殺される人々.
外交の失策.
国連の雇われ兵士たち.

やはり,
何の罪のない人たちが
大量に殺されるのは
避けたい.

それには政治的な
話し合いによる
解決に期待したい

昨日まで隣人同士で,
高校の先生と生徒だった関係が
民族や宗教,イデオロギーを理由に
いとも簡単に互いを攻撃し殺しあう.

今や紛争を終えても,
なお,和解できるものなのか.

ホロコースト以降,
ボスニア内戦,
ルワンダの虐殺,
つい歴史の中で埋もれて
しまいそうな事件を
もう一度掘り起こし,
世間に知らしめる.
このインパクトを
作品として残す意義は大きい.

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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