わかっていても持っていかれた「今夜、世界からこの恋が消えても」

セカコイ

オススメ度:★★★★☆(4.0)
理由:セカコイ.福本莉子が主演となれば,
たぶん持っていかれると思いつつ,鑑賞.
「思い、思われ、ふり、ふられ」
の印象が強い.
たしかに,想定通りの良作でした.
ただ後半の展開が余りに急で,
欲を言えばもう少しちょっとだけ
捻りが欲しかった.
それにしても,
「前向性健忘」から,
この小説を描くという,
トンデモナイ発想が凄い.

もしも昨日のエピソード記憶だけが
欠落するすれば,
今日のことを明日の私に
伝えるために,
あらゆる手段を講じるだろう.
著者の目の付け所が凄い.

原作は2019年に第26回
電撃小説大賞を受賞した
『心は君を描くから』
眠るとその日一日の
記憶を失ってしまう
「前向性健忘」を
患った女子高生と
彼女の秘密を知ってしまった
同級生の男子の恋愛を
描いたものだ.

脚本はツッコミどころ満載
ではあるが,純粋に「好き」とか
この人の為に…という思いが
あれば,あのような行動を
取るんだろうなぁ.

健忘症をテーマにした点,
何処が凄いかと言えば,
そもそも記憶には
「陳述記憶」と「手続き記憶」があり,
さらに「手続き記憶」は
無意識の再生に関係するものとされる.

本作では彼女が自転車に
乗ったり,絵を描いたりと,
体で覚えて行為で再生される記憶.
これが本作中で彼から説明があった
「手続き記憶」だ.
他方,「陳述記憶」は
言葉にできる記憶をいう.
その「陳述記憶」を分類すると
「エピソード記憶」と
「意味記憶」とに分けられ,
中でも「エピソード記憶」は
普段の生活の中での出来事の
記憶を示す.

つまりは「いつ、どこで,なにをしたか」
といった記憶だ.
彼女はこの「エピソード記憶」だけが
抜け落ちるのだ.

知的機能にはほとんど障害が
認められないから,
普段の生活には
支障はないだろう.
素晴らしい設定だ,

あの映画『ブレードランナー』に
登場するレプリカントを
思い出させる.
人は結局は
思い出の積み重ねで生きている.
それは見方を変えれば,
単に罪を重ねたもの…
まさに「罪重ね」なのかも
しれません.

さて,話を戻そう.
これ以上話すとネタバレに
なるので控えるが…
一日で忘れるとしたら,
明日の自分すら,
今の自分は騙せることができる.
ということだ.

悲しい記憶を
一切忘れることもできる.
楽しい記憶だけを残すことも
できる.プログラミングが
自らできるのだ.

普通は辛い記憶は,
心に突き刺さるような
激しい記憶は,
時間が解決してくれる.
それはやがて,薄れて,
良い思い出と化す.
ゆっくりと忘れるからこそ,
癒やされ,内省も
するのではないか.

健忘はトラウマから
解放できる反面,本当は
痛みが無くなることが
果たして良いことか
どうかは疑問だ.

ただ,相手を思い,
好きになれば,
やはり彼女の記憶には
良い思い出だけを刻み,
嫌な思い,
汚い思い出は
消し去りたい.
わかる気がする.

そう考えると,
複雑な作品でもあり,
結構重い作品でもある.

良作だ.

投稿者プロフィール

天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。名古屋工業大学客員准教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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