以心伝心人は誤解を招く「母性」

母性

オススメ度:★★★★☆(4.3)
理由:言わなくても伝わるは無い.
例え言葉を発しても伝わらない.
「キティちゃんのが欲しい」というのと,
「今度はおばあちゃん,キティちゃんを
刺繍して!」というのとは全く違う.
似て非なるものだ.
目に映る見える出来事は
その人のフィルターを通して
見ている事もある.言葉も同様だ.
常に出来事はニュートラルなのだ.

母娘3代に渡る関係性.
湊かなえ原作.2013年に山本周五郎賞候補と
なった作品.本作はミステリ小説に
分類されるが,実は人の深層心理を
紐解いた作品のような気がする.
戸田恵梨香と永野芽郁が
母娘役を演じた作品で,
超骨太作品だ.

「娘を愛せない母」の手記.
そして「母に愛されたい娘」の回想.
それぞれの視点が交差しながら,
物語が展開していく.

母親が娘よりも自分にとっては
一番の存在.そんな母親に
育てられても,母親に好かれたい,
愛されたい一心の娘.
娘は母親に気を遣い,
それがやがて行き過ぎた
正義感へと走っていく.
母娘間でそれぞれ起きた現象は
ニュートラルなのに,
捉え方や記憶が食い違う母娘.

そして義母(姑)と
娘(嫁)という関係性.
ルミ子の母親役の大地真央.
義母役の高畑淳子の演技が凄い.

求めようと追うと離れ,
愛情を注ぎ込もうとすると
自分の意図する方向とは
逆のことをされ,
それを躾として求める.
それは歪なのか何なのか.

決して,
ネグレクトしているわけではない.
母は娘を無視はしていないのだ.
互いにボタンの掛け違い.
捉え方が違うのだ.
先程記載したが,
キティちゃんお刺繍をお願いしたはずが,
既製品のキティちゃんの
キャラクターグッツと
聞き違える母親.
受け手側の問題が
送り手の語彙の問題か.

愛の形が違う.
感謝するのか当然とするのか.
行動や行為はニュートラルだが,
感情は見方を変え,
事象をニュートラルとしては捉えない.

衝撃的なあの台風での火災.
母娘関係の歪というか,
子から子へ.
ルミ子が娘を身ごもった時に
掛けたセリフが何とも不気味に思える.

こんなにも歪んだ愛の表現があるんだ.
この息苦しさ.異常な愛情なのか,
それともそこまで抱くものなのか正直,
わからくなる.
母性へのコンプレックスから
起こる感情なのか.
“娘を愛能う限り愛しました“
「母親とはこう有るべき」と言った
「べき」とは,超エゴにほかならない.
母親が娘にしてきたことは,
必ずしも自分の子どもを
愛するとは限らない.

母娘の関わりの中での
心の内に秘めているものを
丁寧に描いている作品だ.
「何をすれば母は私を必要としてくれるのだろうか.私を愛してくれるのだろうか」
「母性とは学習によってあとから備わっていくものではないでしょうか」
のセリフが印象に残る.
ふと,太宰治の「斜陽」を思い出した.

最後の音楽は無い方が良かったように思えた.
あのまま,どんよりとした雰囲気のまま,
エンドロールを迎えたほうがより,
緊張感が増すようにも感じた.いい作品でした.

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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