何とも言えない虚しさと悔しさ,そして腹立たしさに嫌悪感「無聲 The Silent Forest」

無聾(1)

オススメ度:★★★★☆(4.4)
理由:これぞ!何とも言えない
悶々する社会派作品の傑作だ.
音のない子どもたちから見たら,
これほどまでに差別と偏見に
苛まれた普通学校.
五体満足の人だけが普通で,
障害の持った子どもたちが通う
「ろう学校」.
理不尽なことをされてもなお,
それでも閉ざされたこの学校が
居心地がいいのだ.
コンフォートゾーンの中
なのだという.

無聾(3)

本作は2020年の台湾映画
『無聲(むせい)The Silent Forest』
耳が不自由な世界.
健常者の通う普通学校では,
周囲の生徒の未熟さから
イジメなど,
辛い経験があるという.
だから,同じ仲間が居る
特別支援学校の「ろう学校」へ
希望する障害者が多いと聴く.
本作の主人公も
そうした普通学校からの
嫌な経験から解放され
新しい生活に期待した.
しかし,そこでは…

台湾の「ろう学校」で
実際に起きた事件が元に
なっている.同級生の女子を
複数の男子生徒から
ゲームと称して
暴行・レイプを受ける.
これは単なる事件ではなく,
闇の深さが見事に
描かれており,凄い作品だ.
これだけ音のない世界を,
ここまでも強烈に
しかも胸を押さえつけられる
ようなこの圧迫感.嗚咽感.
焦燥感が堪らない.

性暴力・性虐待を
扱った作品は勧善懲悪で
決して終わらない.
また未来に兆しは
見えるが,
それは遥かに
遠い感じがする.
辛さや切なさが
半端なものじゃないのだ.
障害者の性虐待は
わが国でも
職員による利用児童への
性的虐待行為が
報道されたことがあった.
人の弱みにつけ込んだ
卑劣な行為.
閉鎖された耳の
聞こえない世界.
その密室では
こうした不正が
他にも温存されている
のかもしれない.

被害者は加害者を生み,
また繰り返される
負の連鎖.
やられたことを
また自分と同じ
抵抗できない後輩へ
引き継いでいく.
教師もクズでカス.

ここまでされても,
普通学校には
行きたくないという.

その彼ら彼女らの
苦悩の心の叫び.
ある種の諦めと選択.

それでも閉ざされた
世界の方が居心地が
良いのだ.

この闇の世界.
知らなければ,
黙っていれば
過ぎ去っていく世界.
それを,闇を知って
しまったばかりに,
葛藤だったり
恐怖を感じる.

当事者の痛みや苦しみ.
それがやがて
異常な悦びの世界へ.
子どもたちも変容する.

大人は生徒よりも
経営や学校存続に
注視し自らの保身に走る,
個性といえば,個性.
大人の事情といえば事情.
悶々としたこの嫌悪感.
これぞ映画.凄い作品だ.

衝撃のバスでの暴行.
本当にあったのか
どうかはわからない.
生徒は笑いながらも,
集団でそのゲームを
愉しんでいる.
他の女子は見て見ぬ振り.
そんなことを
訴えることなく,
また普通にやられた女子も
グランドで遊ぶ.
彼ら彼女らは,
この学校しか行く場がない….
そうした想いが
次第にわかってくる.
普通学校でも,
いや開放された社会でも
差別のない本当に
彼らにとっての
普通の生活が
できればいいが,
それはそんなに
簡単なことでは
ないということが
よくわかる.

耳の不自由な
子どもたちには,
人に助けを呼ぶ際には,
手を大きく振るしかなく,
はっきり人に
伝えるような声が
出せないのだ.
健常者とは違う.

自分のことよりも
人の気持がわかる人が
本作を通じて増えると
いいと思う.

まさに骨太な作品だ

無聾(2)

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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