「バイス」観ました

バイス

この作品はコメディではあるものの、あまりに辛辣すぎてそれでいて多くの人が亡くなっていることからすると心底から笑えないドラマ映画だ。この作品はあのジョージ・ブッシュ時代のディック・チェイニー副大統領の伝記でもある。
作品ポスターにあるように、「まさかの実話!アメリカ史上最強で最凶の副大統領」である。ただ、中身は深い。歴史的事実をこの作品で垣間見ることができる。そういう点では尖ったエッジの効いた面白さがある作品である。特に70年代から00年代までのアメリカの歴史でもある。

ウォーターゲート事件で辞任に追われたニクソン。イラクのクェート侵攻を発端に湾岸戦争に発展したジョージ・H・W・ブッシュ。そして、イラク戦争でフセイン倒したジョージ・W・ブッシュ。親子に渡ってどちらの政権にも、あのチェイニーが絡んでいる。闇の将軍、闇の大統領と言っても過言ではない。こうした作品は、普通は本人が亡くなってから暴露されることが多いが、そうでないところがアメリカらしい。さすがに未だ表現の自由の国ということかも知れません。
「バイス」とは、なんとも言えない映画タイトル。「バイス」(原題「VICE」)の意味が「悪」「悪習」「悪徳」など、いわゆるワルという意味と、もう一つの意味が接頭語の「VICE」で「副」である。たとえば副社長だったり、副学長だったり…つまりは「副大統領」という意味とワルを掛けているところも面白い。

作品の出だしから面白かった。チェイニーは若い頃は飲酒運転で捕まったりして、アル中で、どうしようもない若者だったらしい。それが恋人リンからの罵倒とも言える叱責により、それで奮起して議員になるという設定だ。その経緯というか、これがちょっと単純すぎるような気もするが、その後の共和党のラムズフェルドの出逢い。ウォーターゲート事件で失脚したニクソン大統領の後にラムズフェルドと一緒に復権するシーンも面白い。

そして企業でのCEO就任。そして最終的にはジョージ・ブッシュ時代に副大統領に就任し絶大な権力を手にする。悪い意味で、まさにピンチをチャンスに切り替えるの能力が桁外れなのだ。

ただ、家族愛は感心させられる。憎めない一面も感じられる。特に娘への愛。同性愛の娘に対する父親としての気持ち。肯定する親の気持ち。悪代官で、私生活は悪くないところが複雑な感情を生む。

彼には愛国心や忠誠心はあったのだろうか?
政治の駆け引き。諜報活動、情報操作。合法なのか違法なのか?弁護士を近くに置きつつ次々と合法にして法の隙間を見つけ出す手腕は凄い。世論をも惹きつけるのだ。立法や行政のメールを事前に把握して、都合の悪いものは削除していくという点も末恐ろしい感じもする。
そして極めつけは友人を間違って誤射しても謝るどころか、休暇中に休養できずに悪かった…と逆に被害者が謝るという前代未聞の結末。これも凄い。
さすがにアカデミー賞8部門ノミネート作品だ。★★★☆☆