オススメ度:★★★★☆(4.2)
理由:これは凄い.
本作品は単に性的サディズムや
マゾヒズムといった
興味本位なものではない.
亡くなった人は
この世には再び戻ることは無い.
しかし…
会える方法があるとすれば,
それは脳内で創られた世界.
リアリティの世界であり,
クリストファー・ノーランの
ような世界ではない.
表現される世界は
精神的なモノか心理的なモノ.
感動する共感すると
いったものではない.
凄い作品だ.
心理というのか,
精神医学なのか
そうした人の
心の世界を垣間見る
大人の作品である.
フィンランドの湖畔.
そこに両親と娘の家族3人.
おそらく別荘での
バカンスなのだろうか.
そんなある日,いつものように
湖畔で魚をとったり,
子どもと戯れたりしている.
そんな中,
不慮の事故で最愛の妻が
溺れ死ぬという悲劇が起こる.
残された父娘の2人.
あれから7年の年月が流れ,
娘は年頃に成長する.
年頃の娘との微妙な父娘の距離感.
そして今でも忘れられない
妻の想いが重くのしかかる.
亡き妻の衣服,
妻の香水を
頼りに寝室で
自慰を繰り返す毎日.
そんなある日,
偶然お客と間違われて
SMクラブのモナと知り合う.
彼女からSの痛みを
彼はMとして受け入れる.
そこで,
なんとも不思議な
快楽を発見する.
それは…
恐らく妻を助けられなかった
という思いや罪悪感.
Mを通じて,
実は自分自身を
罰しているのかもしれない.
そうすることによって,
心の安らぎを
得たのかもしれない.
その行為で溺死にも
似た感覚,
その息ができない自分に,
当時の溺死した妻の気持ちが
重なり,妻との思いが
クッキリと
現れるのではなかろうか.
恐らく作品の映像は
そういう意味なのだろう.
犬のように扱われながらも,
そこに快楽を得る.
その快楽を得るために
ストーカのように付け回す,
やがては,
それに依存するような
生活に陥る.
そして…
これまで安定した生活が
脅かされていくことにもなる.
モナ自身がSに快楽を
得ていること.
それを完全に
受け入れる男性.
余りに痛々しくて,
観ているこちらが
目を覆いたくなる.
しかしそれは歪んだ恋愛
ではなく,純粋に妻を
愛していたからこそだ,
だからこそ
浮かびある感覚では
なかろうか.
快楽は亡き妻に会うためなのか.
それともSMクラブの
彼女のことが次第に
好きになっていったのか.
自ら背負った心の苦痛を,
自らの躰をいじめることで
逆に心の癒しを得たのではないか.
現実の世界と夢や
幻想の世界との区別が
次第につかなくなって
いくのではないか.
彼らの仕事,彼は医者.
一方彼女は,
おそらく理学療法士?
あるいは整体師
なのだろう.
ともに治療するという
職に居ながら,
躰を痛めつけるという
真逆な行為にも
意味があるのだろう.
一見異常に見える人たちが
実は身近に居て,
ひょっとしたら,
いつ自分がその立場に
なるのかもわからない.
人は失った愛を別の形で
再び取り戻すことができる.
そんな勇気を
もらったような気がする.
罪悪とは,自身が基準を持って
決めるもので,
世間からは異常に
見える行為も
本人達には正常な行為なのだ.
失ったことで,再生もあり得る.
失ったことは無ではなく,
その物語全体として
捉えた方がいい.
現時点の時間は刻一刻
動いている.
同時に思い出は,
やがてはセピア色になるが,
決して
それは停止している
わけではなく,
忘れていることも
含め動いているのだ.
エンドロールが流れた時,
この男女は,
普通の生活に戻るでもなく,
と言って地の果てまで
逝くわけでもなく,
未来は果たして
幸せなのかどうか.
そんなことを
考えさせられる作品だ.
非常に奥深い.
満たされない心を
満たすには,
一体何が必要なのか.
空っぽな心.
虚しさを埋めること.
それは何だろう.
亡くなった妻との再会には,
性的快楽こそが,
まさに小さな死であり,
記憶の中に留まっている妻を
惹き寄せることにもなる.
それは妻が
身にまとっていた服であり,
香水なのだ.
凄い作品だ.
投稿者プロフィール
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人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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