すべて術中にハマった完璧で見事な脚本「由宇子の天秤」

由宇子の天秤

オススメ度:★★★★★(4.7)
理由:まさにこれぞ映画の醍醐味.
勧善懲悪のようなエンタメでない
骨太作品だ.人に厳しく,
自分に優しい…
ことに自戒.報道の便り,
正義と不義,自分と他人.
光と闇.陽と陰.表と裏.
人は心に天秤を持っている.
公正明大のシンボルである剣と
天秤を持つ正義の女神.
女神のように目隠しをして,
己も身内も含め万人に
等しく平等に
見る心の目とは何なのだろう.

あくまでリアルな
ドキュメント映画のように,
手持ちカメラの手ブレ,
そして劇伴音楽も無し.

由宇子の天秤(説明)

『火口のふたり』
瀧内公美が由宇子を演じる.
彼女の演技は素晴らしい.

彼女はジャーナリストで
ありながらも父の学習塾を
手伝うTA(ティチング・アシスト)
でもある.
彼女の様々な立場.
その時々の会話・動作・目線….
それぞれの心の描写は表現される.
これぞ映画の醍醐味.

人には
正義を振りかざして
「正しい」ことを主張する面と,
ルール違反の裏通りを歩き,
不義を働きエゴで自分に
都合の良いことを正当化する
「悪い(不正)」面がある.
人は多面体なのだ.

正義の反対は別の正義という
解釈もあるから,
ある意味,一見悪いと
見えることでも
別の正義かもしれない.

劇中である瞬間,
共感ができたとしても,
別の瞬間では決して
共感できない,
むしろ嫌悪が
走ることもある.

この作品のインパクトは,
時間をおけばおくほど,
まるでボディブローの
如く効いてくる.
正義を通すか隠し通すか,
どちらが「得」か,
いや「徳」かを
選択すべきなのか迷うのだ.
その場面場面で,
秤に掛けている自分も
間違いなく,そこにいる.

隠し通せるなら,
隠し通したい.
という気持ちもわかる.
でも,自分が被害者なら
「正義」を振りかざす.
自分のことを信じている人,
その人を疑った瞬間,
それを相手に口にした瞬間,
実はそれが過ちだと知った時の
やりきれない気持ち.
なんともその表現力・描写が凄い,

秤にかけること.
「本当と嘘」「信頼と疑念」
「自分や身内と他人」「罪悪感や正義感」
それに妥協,打算.
自分の天秤は,
どちらかに傾く.
傾いた方を選択せざるを得ない.

どちらも正解,
いや,そこには正解はなく,
結果だけが存在するのかもしれない.

それにしても,
この脚本は凄い.
イジメを報道と学校,
被害者と加害者.
各証言から客観的立証は
難しいものの,
大衆の感情から自ずと
正しいと思われる方向に
誘導されていく.
いわゆる情報操作.

プロヂューサーや
スポンサーに都合よく
切り貼りされ編集された情報.

しかし,そこに新たな事実が….
そして一つの事件だけでなく,
身内の事件も重なっていく展開.
意外にも,
どこにでもあるような話かもしれない.

まるで,作品を見る側の自分が
主人公由宇子になった気分,
序盤は自分が由宇子に
乗り移ってドキュメンタリー作品を
つくっているような錯覚.
それでいて,ジャーナリスト意外の
顔も感情移入できる.
当然,彼女がっ疑念を持つことは,
観客にも同様に持つ.
事実の奥に隠れる真実が
よくわからない.
最後の大逆転劇に
まるで谷底に突き落とされた感覚.
見ているこちらの
天秤が既に壊れてしまった状態だ.
まさに大傑作だ.

由宇子の天秤(解説)

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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