昭和の義理人情の世界を取り戻したい想い「とんび」

とんび

オススメ度:★★★★☆(4.4)
理由:原作の作家重松清と同年代だけに,
その親子関係.そして重松自身の自伝的な
小説だけに感情移入が半端ない.
父と子.ヤスとアキラがちょうど父と自分と
重なる.「ある」「ある」の中に,
深く染み入る人間関係の表現に
圧倒された.親子関係の設定が全く一緒.
場所は広島ではないが,
昭和9年生まれの父と,
昭和37年生まれの私.

父役の阿部寛と息子役の北村匠海の親子.
ヤスとアキラ.アキラは小林旭.
娘なら小百合と名付けたいという気持ち.
あるある.妙に共感した.

当時のファッション,髪型….
今更ながら,映画の凄みを
感じ入った次第.
時代の移り変わりが走馬灯のように
映画の映像により鮮明に
思い出させてくれる.

人の「ほっこり」とした
優しさに触れられる作品.
古き良き,義理人情の昭和時代.
不器用な父親が,息子を育てる
という物語.普段忘れがちな
「当たり前」として,見逃す,
いや違う,見て見ぬふりしてしまう,
そんな嫌な自分を
洗い流してくれた作品だ.

忘れてはならない人から
頂いたご恩と恩送り.
まさに義理人情の世界.

約20年前に新聞連載された
直木賞作家である重松清の小説.
これまでNHKやTBSで
テレビドラマ化され,
今回で3度目の映像化だ.
テレビ化も高視聴率で好評だけに,
一体どんな仕上がりなんだろうか.
と思いつつ鑑賞.

あの連続ドラマを,
映画という制限時間に
これは見事!見事に収められた
ことに感心,いや感動した.

父の嘘がなんともカッコ良すぎる.
アキラの就職試験で書いたとされる
「父への作文」には泣ける.
親子は離れ離れになるも,
ぐっと親子が近づいた瞬間でもある.

「僕に恨みを抱かせなかった父を誇りに思う」
という息子の作文.

不器用だけどものすごく,
息子を愛していたことがよく分かる.

その作文で風呂場の
親子のシーンが,
思い出される.
と泣けてしまうほどのインパクト.

和尚の温かい,そして重みのある言葉.
母を失った子は,父親だけで育てられる.
両親が入れば,二人で子を
育むことになるが,片親の子は,
その代わりをご近所さんが義理や人情,
思いやりで,カバーするのだ.
それが昭和時代.
令和の時代の今でも
それを失わずにいたいものだ.

これぞ映画の醍醐味.
時空を思い出とともに,
どんな過去であろうとも
「今」へと飛ぶ.
高度成長期の昭和30年代後半から平成へ,
そしてまた大阪万博の昭和40年代に,
そしてバブルの昭和63年へ.
そして平成,令和.
また昭和へと時代は
行ったり来たりする.

父親と生き別れになったヤスが,
我武者羅に息子を育てる.
周囲の義理人情の世界で
暖かく育まれる息子.
世間の暖かさが嬉しい.
周囲が暖かすぎて泣けるんだ.
不器用な父親の一つ一つの
行動が突飛オシもないもので
ありながらも,素直でまっすぐな
父親.その仕草に笑える,
口角が緩んで,そして泣ける.
涙が止まらない.

古き良き時代.
居酒屋で愚痴をいいながら,
ご近所さんが集まる憩いの場.
かつては,
こうした居酒屋が
あちらこちらに
あったように思う.
居酒屋の女将の薬師丸ひろ子.
蛤のお吸い物を実の娘に
差し出すシーン,
親子でお坊さん役の安田顕が
ヤスをゲンコツで殴るシーン,
どれも名演技でした.

まさに昭和時代に居た居た.
そんな居酒屋の女将に愚痴を
言って慰められたり
叱られたりしたものだった.

子々孫々と紡いでいくと
いうことの大切さが
切々と伝わる.

ただ,北村匠海の
老けた役は今ひとつであったけど,
彼が自分の息子の背中に
手を当てた瞬間が泣けた.
良作には違いない.

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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