「オッペンハイマー」

★★★★☆(4.0)
理由:オスカー7部門で受賞した作品。
あの天才クリストファー・ノーランと
いえば、何と言っても壮大な宇宙を
舞台とした「インターステラー」
そして夢の時空を描いた「インセプション」

今回の作品は、
ドキュメンタリータッチの
「ダンケルク」に近いかも。
ただ、被爆国の日本国民の一人
としては、ちょっと複雑な心境です。
ノーラン作品には時間軸が
入り乱れるのが特徴で、今回も
時間を巧みに脚本する描き方は
ノーランらしい。
果たして時間とは回想なのか、
そして今は一体どこなのか。
そこを見事に、あの映像の切り方。
カラーとモノクロ。
これを巧みに扱うことで補完している。
中身は恐らく、純粋の科学者としての
自分。
そして、そもそも人として、どうよ?
って言う倫理の自問自答。
彼にとっては、ヒロシマもナガサキも
実際に起きた出来事ではあるが、
遠い存在と、感じていたかもしれない。
でも、後から後から湧いてくる
自身が実際に感じた事。
その変わり方、
その表現を見せる映像の様がまた見事!
感情は動くってことだ。
日本での封切りが、怪しくなって、
ホント心配した。
バーベンハイマー(作風が正反対の作品が同じ日に劇場公開されるという意)といったSNSの社会現象もあり、
それでも日本で、
ようやく見られるようになって、
良かった。
配給があってホント良かった。
正直、国際flightしか、
観られないかと思った。
科学的な面と心情的な面、
そして伝記としての面。
そのどの切り口も、興味深い。
伝記なんだから、
ネタバレも公知の事実ではある。
そう思うと手が進む。
本作品は。登場人物の人間関係を
ある程度知らない損する可能性大。
TENETも複雑だけど、
別の意味で人間関係が複雑だ。
量子力学に懐疑的だったアルバート。
「神はサイコロを振らない」と、バサギリ。でも、量子力学の世界では常識。
「神に何をなすべきか、何をなさざるべきかを貴方が語るなかれ」の一説もあり、
中々興味深い。
これだけ盛りだくさんで、
一度の鑑賞ではわからないところも
多々あった、もう一度見るしかない。
ネタバレですが、
冒頭にあったプロメテウス。
プロメテウスといえば、天界の火を盗んで人類に与えた神で、火が使えない人類は、寒さに耐えきれない。火さえあれば、暖をとることができる。そこでゼウスの反対を押し切って人類に火を与えたプロメテウス。その結果、人類はゼウスの予言通り、その火を使って武器を作り戦争を始めることになっという。皮肉な結果となった。
結局プロメテウスは、山頂で磔になり、生きながらにして内蔵を鷲についばまれる責めを負うことになる。
そして彼を助けたのは勇者ヘラクレス。
オッペンハイマーを救ったのは
誰なのか。
プロメテウスが彼だとすれば…。
伏線の見事な回収も見どころ。
寝落ちすると見逃します(笑)
さて話をオッペンハイマー本人に戻します。
ハーバード大学、
その後ケンブリッジ大学に留学。
教壇に立つ彼の愛称は「オッピー」
ブラックホールの研究から、
やがて原爆開発への経緯が
映像で表現されている。
ロスアラモス国立研究所の初代所長。
マンハッタン計画に携わり、
「原爆の父」といわれる、
その後、原爆開発から一転、
戦後の水爆開発反対と、
公職の追放、そして、
名誉回復までの3時間のストーリー。
弟のフランク・オッペンハイマーも
物理学者。
ニューメキシコでの
核実験『トリニティ実験』
核実験成功の描写は
複雑な気持ちになった。
彼の有名なエピソード、
トルーマン大統領との対面で
語ったとされる
オッペンハイマーが
語ったとされる
「手が血塗られている」のフレーズ。
「ボタンを押したのは私だ」と
言い返したトルーマン。
本作品では登場人物を
おさえることが重要。
人間関係を知っておくのは、
本作を観るためには必須です(苦笑)
「水爆の父」エドワード・テラー、
そしてあの靴の行商人から
成り上がったストロースの
執拗なまでのオッペンハイマーへの
敵意が引き起こした
「オッペンハイマー事件」
米原子力委員会委員長の
ストローズの糾弾。
戦後の冷戦期のレッドパージ、
マッカーシーの赤狩り。
これらはおさえて
鑑賞するとワンランクうえの
楽しみ方で観られるかと。
原爆そのものは、
ラザフォードモデルを改良して
電子の量子的な振る舞いを
整合させたボーアモデルから始まる。
第二次世界大戦下、
ドイツ、日本、アメリカなどで
開発競争があったと言われる。
この点は邦画「太陽の子」でも
やってました。
ドイツ、日本、アメリカには
ハイゼンベルグ、仁科芳雄、オッペンハイマーがいましたから。
核分裂の「連鎖反応」といっても
問題は連鎖反応が持続するところ。
しばしば聞いたことがある「臨界状態」の達成。
ロスアラモスで米国が成功したのち、
米ソ仏を中心に約2,000回核実験が
なされたという。
原子が核分裂反応するときに
放出するエネルギーを
利用するのが原爆。
ダイナマイトは基本、
化学反応によって
原子の結合エネルギーを
取り出すのに対して、
原子核の陽子・中性子間の
核エネルギーとして取り出す
ところが原理的に違う。
作品にも時折TNTという言葉が出る。
原爆のエネルギーの大きさは、
TNT火薬の重量に換算(TNT換算)して
評価するところを知らないと
作品の魅力も半減です。
作品にも紹介されてますが、
ただし評価できるのは
爆発時の破壊力だけ。
放射線による様々な障害や
汚染は考慮されていないことにも
注視する必要があり。
核出力として、しばしば作品に
登場する[キロトン]という単位。
あと、おさえたいのは時間軸。
1942年からマンハッタン計画
1945年7月ニューメキシコ州アラモゴード軍事基地
砂漠で人類最初の原爆実験(トリニティ実験)
他方ソ連では49年8月、
カザフ共和国でプルトニウム型原爆の
実験に成功。
後,気になったのは、
開発の考え方。
マンハッタン計画では、
あの時代に、何もない砂漠に、
家族ごと移り住むために
病院やお店、街を作る、
コロニーを作る。
そのやり方は、
今日の開発支援で
インフラを作る欧米のやり方にも
反映されている。
この頃から定着していたんだ。
未だに日本では単身赴任で
テントかホテル生活をしている
ようでは、ODAやJICAも
成功しないだろうと思料。
さて、ストロースに話を戻す。
靴の行商人から這い上がった
資本家、政治家。
戦後の冷戦期のレッド・パージで、
オッペンハイマーを
ソ連のスパイとして
でっち上げて弾劾し、
彼の失脚を試みる。
彼の周辺には、過去に
共産党関係者も多かったのも確か。
つけ入る隙を与えた。
でも結局はストロースは
偽証により失脚。
所詮成金のストロースが
天才オッペンハイマーに叶うわけもなく、
と言うか、オッペンハイマーは
最初から相手にしない。
もちろんアルバートも
相手にしない。
ストロースも
オッペンハイマーとは
別世界にあるのだから、
執拗に固執することなく
普通に世間を送れば、
こんな恥を欠かずに済んだのだろう。
妙なところに劣等感を
抱くという人の心の動き
も垣間見れます。
良かった。
あっという間に3時間でした。

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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