「あなたの名前を呼べたなら」観ました

ポスター

タイトルからして、メルヘンチックなラブコメ作品と思いましたが、全く違いました。とても息苦しい。身分とか風習とか変えられないものを感じました。
さて作品の舞台はインド最大の都市ムンバイ。昔のボンベイです。インドの都市の名前は、元々はイギリスの植民地時代に付けられたものなんですが、ボンベイという名も数年前に地元州政府の決定でムンバイになりました。

ボンベイ(ムンバイ)も私が20代の頃、キリマンジャロに登るため、エア・インディア航空でボンベイ経由ケニア・ナイロビに行ったことを思い出した。ナイロビに行く便がズレたため2~3日トランジットしてボンベイ宿泊した。確か1980年代だったか、当時はスラム街が空港からホテル街に行くまでに貧富の差というのを見せつけられた。今のムンバイ(ボンベイ)は、経済発展が著しくて高層ビルが立ち並んでいます。この作品で高層マンションから街並みを見下ろすシーンがありますが、当時とは比べものにならない気がします。

アメリカの建設会社の御曹司の新婚家庭に、農村出身のメイド、ヒロインのラトナ。ラトナは裁縫が好きで夢はファッションデザイナー。しかし19歳の時に早くに夫を亡くした、いわゆる未亡人なのである。
ヒロインのラトナは大人しい。本当に内気なのか?明るいとは言い難い。どちらかと言えば暗い表情。それはなぜか?
インドの社会では、女性が未亡人となると、世間では相手にしてもらえない人…という扱いになってしまうのだ。男尊女卑の社会なのか。風習なのか。だから未亡人の彼女は村から追われるようにムンバイに働きに出たのだ。だから、いくら明るい性格の人でも、そんな環境の中では暗くなっても致し方ない、そんなことを思う。暗くて日陰暮らしをしている理由が、この作品を通じて自然に感じられる。映画の醍醐味なのかも知れません。

あなたの名前で呼べたなら

だから、結局は自由でいるためには、変わらない社会の仕組みからは逃げ出すしかない。それは国や故郷を捨てる、親とか肉親を捨てる、亡命する、世俗・風習に縛られないところに二人で暮らすしか無いのかも知れません。わかってはいるが、現実には、なかなかできることではない。
メイドのラトナのことが「好きだ」と告白した旦那様。ラトナの気持ちもわかる、メイドの彼女を未亡人の彼女を嫁にすることを決して社会は許さない。そうした背景を互いにしりつつ、互いを思いやる優しさ。相手のことを思う互いの想い、それがまた辛い。苦しくて息がつまりそう。出会わなければ、そんな苦しい想いをすることもなかったのに。そしてラストシーンでラトナから発せられる言葉。それがとても心を、胸を、打つんだよね。

だいたいインド映画といえば、ダンガルバーフバリのような完全にぶっ飛びのエンタメ映画が多いと思います。ところが本作品はとてもシリアスな作品。ラトナが目立たず大人しく繊細地味だからこそ、惹かれる。わかる、わかる、とっても共感する。もっと思いを互いに話し合えば、もっと道が開けたかも知れないのに互いに寡黙に過ぎていく時間、互いに会わないようにマンションを出ていく。そのもどかしさ。それが返って胸を打つ。プラトニックで何も進行はしないが、その中にこそ、互いの思いやりが感じられる。しばらく呆然とした。それでいて後味は悪くはない。ありがとう。この作品に出会えたことに感謝。★★★☆☆

投稿者プロフィール

天雨 徹
天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。名古屋工業大学客員准教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」
ブログでは日々の気づきを中心に書いている。
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