カスでクズ,それなのに嗚咽してしまった又吉の映画作品「劇場」

劇場1

「一番 会いたい人に会いに行く。
こんな当たり前のことが、
なんでできなかったんだろうね。」

オススメ度:★★★★☆(4.2)
理由:我儘で自己中.クズでカスの
永田に腹が立つが,その彼の気持ちと
行動が痛いほどわかる.
決して共感はできないが,
何故か泣けるんだよね.
後悔しても悔いきれない遠い昔….
大したことのない日常で,
有りがちな情景ではあるが,
実にリアル.
最近,再度見たいという作品は
無かったが,これはもう一度行く
価値がある.

本作品を通じて,
又吉さんの原作を読んでみたくなった.
いい作品でした.

お笑いタレントの又吉直樹.
やっぱり凄いな.

人間的に成長していない,
その未熟さ.それが痛いほどわかる.
売れない劇団脚本演出を手掛ける永田.
彼を演じる山﨑賢人には、
全く共感できない.
超我儘,幼い.未熟者.
だが,それでも,
その超我儘満載の気持ちが
なぜが痛いほどわかる.

何度も言うが,決して共感はできない.
しかし,あの時,あの頃が蘇る.
私もそんな…似たようなことを
してきたのかもしれない.
そう思うと,涙が次々と溢れた.

知り合った彼女沙希役を演ずる
松岡茉優が本当に素晴らしい演技だ.
「万引き家族」
「蜜蜂と遠雷」
「ひとよ」
どれも惹き込まれた作品だ.

7月17日に劇場公開と同時に
Amazonプライムでの配信も
始まったようだ.
でもこの作品は絶対,
映画館がおすすめ.

もがき苦しむ永田,
そしてそれを支えたい一心の健気な沙希。
なんていい人なんだろう.

こういう痛い恋愛を見ると,
出会わなければ良かった.
逢うからこそ痛いんだと.
いや痛々しいし,それが見ていて辛い

若い時は,愚かで未熟.
なぜあんなことを言ってしまったのか.
時が経つと,その当時の愚行がよく分かる.
もう一度,もう一度,もう一度…
取り戻したいあの時間.あの時.

ヒモ男,最低のクズ.カス.
気遣い全くなし.でも若い頃はそうだった.

日常に有りがちな内容.
しかし,そんな中にあって,
それを作品として切り取ることの,
この表現の凄さ.

東京東京東京…書けば書くほど恋しくなる
(『誰か故郷を想はざる』)寺山修司が
ちょうど青森から上京した気持ち.
沙希も同じ青森出身で,
そんな憧れで上京したのだろうと,思った.

理想と現実.
好きなことをやっても成功しない.
夢を求めて努力しても必ずしも成功しない.
それが現実なのだ.

そう思うと…,
怠惰な生活があっても仕方がない.
人はそんな一面もある.

根っから意地悪じゃないけど,
嫉妬とか妬みとかがあって,
ついつい意地悪をしたくなったり,
暴言を吐いたり.無視したり.
あった,あった…そんなこと.
涙が溢れて止まらない.
痛々しくて,辛くてたまらない.
ものすごく,奥まで刺さった.

決して自己肯定感がないわけじゃない.
むしろ強かったかもしれない.
それ以上に他人の評価や
彼女が僕を馬鹿にして,
可愛そうだとした視線で
見ているのかも…と思った瞬間,

だからこそ…
好きだからこそ,
彼女に対して,
怒り・暴言を
吐いたりするんだろう.
未熟がゆえだ.

やさしさが憎くなる理不尽さ.
よくわかりすぎて,泣いてしまった.

プライドだけは一人前で,
無関心を装って彼女の時間を奪う.
相手が不安定な状態で,
酒に溺れるようになる.
そんな時に,彼女は頼りたいのに,
ワザと肩透かしをして見せる.

バカみたい….
そんなバカみたいなこと.
同じような衝動に駆られて,
人をどれだけ傷つけたことか.
そんなことが浮かんできた.
苦い思い出.
最低だった自分を思い出した.

全てを受け入れて,
優しくしてくれれば,
してくれるほど,
彼女に意地悪をしたくなる気持ち.

自分の弱さを,優しくすることで
ごまかそうとする自分がそこにはいる.
途中から気持ちが
こみ上げて何度も嗚咽.

そして,
エンドロールの5分は号泣.

心が空っぽになる.
虚しいとはこういう感情なんだ.
何度も何度も,

このフレーズが刺さる.
「一番会いたい人に会いに行く、
こんな当たり前のことがなんで
出来なかったのだろう」
跡を惹く作品だ.

自分には出来すぎる人が
目の前に居ると,
その優しさに触れると
自分が壊れてしまう.

いつも劣等感に
覆い尽くされている自分が
頼るのは彼女しかいない.
それでいて,その優しさが時として,
窮屈に感じたりする.
結局,男の方があきらかに未熟なのだ.

それを知っててもなお,
傷つけてしまう.

今,この時.
一瞬先は闇.
幸せというのは勘違い
かもしれないことが多々あるように思う.
バランスが
あるいはちょっとした歯車のズレが
致命傷でもある.

自尊心や才能があると
信じている俺が俺が…人間の永田.
それを必死に支えようとする沙希.
寂しくて,酒に溺れる沙希.
こんな二人の行末は
想定範囲内ではある.
ああ~
それにしても切ない.辛い.
叶わない夢,
幸せがあったかも
しれないからこそ,
物語になる.

それでいて
お涙ちょうだいものではない.
そこで自然に涙溢れる作品だからこそ,
素晴らしいんだ.

劇場2

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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