サン・セバスティアン国際映画祭最優秀監督賞の「百花」

百花

オススメ度:★★★☆☆(3.8)
理由:骨太作品.アンソニー・ホプキンスの『ファーザー』
では認知症本人に焦点を当てた作品に対して,
本作は認知症本人の視点よりも
認知症の母親と息子の葛藤を描いた作品だ.
短期記憶のタイムスタンプが
混濁する認知症.本人に自覚はないという.
記憶が無くなるというのは本当に悲しいこと.
本作は切ないが,単にそれだけではない.
その母の過去の行動に
下からフツフツと込み上げてくる憎しみ.
でも母の気持ちもわかる.
母を捨て女性を選択する「好きを我慢しない」とは
本当に実行には信念が必要なのだ.
男の元に飛び込みたい気持ちはわかる.
意味はわかるが,
それでも子どもを捨ててまで,
息子を捨ててまでそうすることか,
そこまでさせるものは何なのか.
わかるけど,わかるけど,それが切ない.
当然息子はそれがトラウマとなり,
その記憶が鮮やかに蘇るトリガを発見し嘔吐する.

そんな息子も妻を持ち,子どもを授かり,
普通の家庭を持つことに不安を抱える.
自ら親になることの不安.母親に対する感情.

母親は薄れゆく記憶の中で,
あの阪神大震災が起こった時は,
遠く離れた我が子のことを思う.
女性よりも母が出たシーンが印象的だ.
葛藤は誰しもある.

「半分の花火」の意味を最後の最後に
ラストシーンで,思わず涙した.

小学生低学年の息子を捨て,
母子家庭にもかかわらず,
男と駆け落ちして1年間子ども
一人置いて出ていった母親.
そんな母親を息子も,結婚・妊娠の歳になり,
一人暮らしの母親を心配し,
献身的に世話をしている.
でも,母と息子の間にはわだかまりは
今での残っていて嫌悪感をあろう.

認知症の感覚.スーパーで何度も何度も
同じところを回りながら卵をカゴに入れるシーン.
母親を心配はするが,
やはりトラウマがあり嫌悪する.
他方,自分の住まいに帰れば子を
授かった妻との生活がある,

認知症の母親の面倒を観るには,
たとえ妻の理解があったとしても,
一緒に暮らすのは難しい.
だから施設に入所させる選択を
せざるを得ない.
母親のことは心配ではあるが,
仕事と介護そして子育ては荷が重い.

人の記憶は,その人自身が決めている.
だから,たとえ息子にとっては
どうでもいいような記憶が
母親にとっては忘れられない記憶
ということもあろう.
表面的にとらえてしまうと,
本作の描写は,
パーソナリティの都合と自己満足に映る.
本当は暗闇でもあり奥が深い.
母親が語った
「あの子は私を許してくれないでしょうね,でも後悔はしてないの」が人間らしい作品の言霊でもある.良かった.

投稿者プロフィール

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天雨 徹
人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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