オススメ度:★★★★☆(4.2)
理由:史実に基づいているだけに,
魂が震える.理不尽極まりない行為に
対して,対抗するのではなく,むしろ
逃げ切る.退行を選択するマンセル.
自己中でありながら,人を救いたいという
彼の素直な心,
ありのままの行動に感動した.
パントマイムの神様,
沈黙の詩人と呼ばれた
フランスのパントマイム・アーティスト
「マルセル・マルソー」
彼は名のしれない頃の戦時中に
レジスタンスとなって
多くのユダヤ人孤児を助けたという.
両親をナチの蛮行により
失った子どもたちを
パントマイムで笑顔に変える.
笑えるということは,
それがそのまま生きる気力へも
通ずるのだ.
本作はそんな名の知れなかった彼の
青年期を映画化したものだ.
マルセル・マルソーを
ジェシー・アイゼンバーグが演じる.
ジェシー・アイゼンバーグと言えば
最近観た作品では「ビバリウム」
これも衝撃的な作品だった.
共演したエマ役の
クレマンス・ポエジーは
「TENET テネット」にも
出演していた.
相変わらず美しい.
ナチの政策,アーリア人至上主義による
浄化はまさに異常.
ユダヤ人はじめ宗教論者や障がい者,
共産主義者等の迫害.
ナチス高官の銃殺や拷問の
悲惨なシーン.
妹をナチに殺され復讐を決意するエマ.
そんな彼女にマルセルは
「殺された家族が生き残った者に
望むのは復讐ではなくて,
その復讐の数だけ,孤児をひとりでも
多く救うこと」だという.
迫害や暴力に対して,
「目には目を」と考えるのは未熟が故.
そうではなくて,子々孫々と受け継ぐことに
注力をする姿勢.俯瞰する幅,
懐の大きさ.
ものの考え方に教えられる.
しかしなかなかそれができない.
わかっているがどうしても感情がそれを
邪魔をし,中々受け入れ難い.
彼の主張する意味はわかる.
そして,迫りくるナチの迫害から
子どもたちをスイスへと逃がすことを
決意する….途中で
見つかりそうになるシーンは
まさに手に汗握る.
マルセルは
「人のことよりも
自分がしたいことをする,
自分のためにする」と,
実はそんな主張を
していたにもかかわらず,
結局彼がしたことは,
「人に喜びと安心を与える
ことをする」ことだったのだ.
その純粋な心が素晴らしい.
内通者,密告者を称えるのは
「返校」と同じだ.
罪を赦す.名誉市民にする,恩賞を与える…
と煽って,それに屈してしまう大衆心理.
恐怖政治とは本当に恐ろしい.
デマや噂.しっかりした意思を
持つことが如何に難しく,
そして尊いかがよく分かる.
仕事とは,生きていくために,
パンなしで人は生きられない.
食いっぱぐれがないなら,
それに従うことも,確かに
生きる術としては必要.
それも理解できる.
しかし,「生きがい」は
別のところにあるのかも
しれない.それが「芸術」なのか.
微差は決して無力ではないのだ.
投稿者プロフィール
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人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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