オススメ度:★★★★☆(4.6)
理由:これは久々に魂が震える作品だ.
忌まわしい過去のせいで,
重い荷物を一生背負いつつ,
それでも生きていく.
深い愛,複雑な疑似親子の関係.
過去を生きるのではなくて,
これからを生きるという
メッセージ性の高い
ラストシーンがいい.
2019年ハンガリー映画.
ナチス・ドイツのユダヤ人の大虐殺.
その残虐な状況を描いた作品は多い.
これまで観た作品「ナチス第三の男」
「ヒトラーに盗られたうさぎ」
「ジョジョ・ラビット」
「ヒトラーを欺いた黄色い星」
「ウィンストン・チャーチル~ヒトラーから世界を救った男~」
などいずれもそうだ.
しかし本作はそうした作品とは
一線を画し,ナチスによって
両親や子ども虐殺され,
その残された家族,
戦後を描いたものだ.
そうした作品は少ないだろう.
ホロコーストの惨状ではなく,
戦後残された人たち.
ハンガリーでは
56万人ものユダヤ人が
殺害された.
1948年,両親と妹を失った孤児の
16歳の少女.
そして逆に妻と子どもを
失った孤独の医師.
互いにホロコーストの
犠牲者が知り合い,
そして親子のような
関係になっていく.
互いに失った悲しみは近い.
だからこそ,
互いに失ったものを
補うかのように
親子のように
親しくなっていく.
楽しかった幸せな思い出は,
時にはそれが強いほどより
一層辛い思い出にも変わる.
それほど人の心は広く,
そして不安定なものだ.
生きているのは偶然.
ほとんどの人は
殺されているのだから.
でも,
どんなに辛い過去があっても,
それを乗り越られる.
笑える日がいつか来ると
信じていれば,なんとかなる.
たとえ輝く未来ではないにせよ,
死ぬよりはマシだ.
死んでしまいたい程辛くても,
生きていればなんとかなる.
笑える日もくる.
そういう時代背景に育った人は,
「いつも嘘をついている人は正直」
だと彼女はいう.
凄く優しそうな笑顔.
逆にもの凄く哀しい表情.
一人ぼっちは寂しすぎる.
たとえ家族や肉親が
いなくても,
その悲しみを半分に喜びを
倍にしてくれるのは,
友達であり,人なのだ.
生きている存在を
認めてくれる人がいる.
ナチスの次はスターリン.
国外の権力に翻弄されてい
ハンガリー.
そこにスターリンの死.
現実には,
人は純粋に「好き」という
気持ちだけでは結ばれない.
しかし,不可能なことがあろうとも,
互いに思いが通じ合った瞬間もある.
複雑な思い.
微妙な心理.恋愛でも友愛でもない,
ひょっとしたら,もっと大きな別の
次元のものなのかもしれない.
微妙な関係がまた切なくていい.
懸命に生きるとはそういうことだ.
たとえようもない大きな傷.
あの激動の時代.
残虐な回想シーンは全くない.
それでも,
残された温かい家族写真から,
その辛さがわかる.
人の気持ちを
心を
これほどまで描いたのは
本当に素晴らしい.
投稿者プロフィール
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人財育成、技術系社員研修の専門家。東京都市大学特任教授。博士(工学)。修士(経済学)。専門は「電力システムネットワーク論」著者に「IEC 61850を適用した電力ネットワーク- スマートグリッドを支える変電所自動化システム -」がある.ブログは映画感想を中心に書いている。
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